税務署は税務調査を実施する前に下見を行う

税務署の調査担当者は、税務調査を実施する前に調査対象者となる納税者に関する下調べを行います。
下調べでは申告書の内容はもちろんのこと、店舗がある現地に赴き、周囲の状況を調べるだけでなく、実際にお店を利用して店内の状況を確認します。
また、税務署は調査対象者を選定ために下見をすることもありますので、今回は税務署が下見をする際に確認している事項と、下見をされやすい業種について解説します。

税務署が調査対象者を選定する基準

税務署は無作為に税務調査を実施することはなく、以下の条件に該当するような納税者を対象に調査を実施します。

申告誤りの有無

税務調査は増差税額を得ることが目的の一つなので、申告内容に誤りがある場合には調査対象者として選出されやすいです。
申告内容の誤りによる増差税額が少額であれば、調査を実施する費用対効果が低いことから、指摘しないケースもあります。
しかし事業者の申告誤りについては、仕訳方法や経費計上のしかたを確認するために、増差税額の大小にかかわらず調査を実施することもありますのでご注意ください。

売上や利益等の金額基準

売上や利益が大きい事業者についても、調査対象者として選出されやすいです。
所得税や法人税は利益が大きいほど適用される税率が高くなるため、同じ申告漏れを指摘する場合でも、所得が大きい事業者の方の申告誤りを指摘した方が多くの増差税額を得ることができます。
税金対策は、納税額が大きい事業者ほど対策を講じたことによる効果が大きくなりますが、法律に基づいた節税であれば問題になることはありません。
ただ一部の事業者は節税ではなく脱税行為をしているケースもあることから、申告内容に疑義があるだけで税務調査を実施することもあります。
また、売上が一定以上の事業者については、調査を担当する職員が一般部門の税務署職員ではなく、特別国税調査官(トッカン)や国税局職員が担当します。
特別国税調査官や国税局職員は、一般職員よりも調査に精通しており、細かい部分も漏れなく指摘してきますので要注意です。

税務署内で蓄積されている資料・情報

税務署には多くの資料や情報が蓄積されており、それらのデータを基に調査対象者を選び、調査を実施します。
法定調書で提出した事業者の取引相手が無申告であれば、事業実態を確認するために調査することもありますし、税務調査で把握した資料から他の事業者の申告漏れが判明すれば、そこから調査が発展することもあります。
国税庁は外部からの情報提供も募っており、提供された情報を基に調査を行うこともありますので、税務署に事業実態を把握されないで経営することは困難です。

調査担当者が調査前に下見をする理由

税務署が税務調査を実施する前に下見をするのには、2つ理由があります。

調査対象者を選定する際の情報収集のため

申告誤りが無ければ増差税額が得られませんので、税務署は申告誤りの可能性を確認するために下見を行うことがあります。
繁盛している店の申告書の売上金額が少なければ、売上を除外している可能性がありますし、経費をあまり必要としない事業なのにもかかわらず経費計上している額が多ければ、経費の水増しの疑いが出てきます。
税務調査が実施できる件数は年間で数%程度しかなく、法人税の実地調査割合は年間3%~4%です。
税務署は申告書の内容から調査対象者を選ぶこともありますが、提出された申告書だけでは売上等が適切に反映されているかわかりませんので、下見により申告書の内容と事業実態に相違点がないか確認します。

調査に事業の状況を確認するため

税務調査の下見は、調査前に事業者の経営状況を確認するために実施することもあります。
飲食店の場合、申告書上の売上よりも明らかに客入りが多ければ売上を除外している可能性が高まりますし、注文の取り方やレジスターの有無もチェックしています。
実地調査で納税者からの回答が正しいかを確かめるために、下見でお店の状況を確認していることもあり、調査の際に虚偽の回答をしてしまうと重加算税が課されてしまうので気を付けてください。

税務署が行っている調査の下見の内容

税務調査の下見には、内観調査と外観調査の2種類あります。

内観調査ではお店の繁盛具合を調べている

内観調査(内偵調査)とは、調査担当者が客としてお店等を利用することにより、客の回転率や売上単価等を確認する調査です。
飲食店やサービス業のお店で用いられることが多い内観調査は、無申告の納税者に対して実施することが多く、どの程度の売上が発生しているかを調べるために行われます。
確定申告書を提出していない納税者に対する調査は、無予告で実施することもありますので、調査担当者は事前準備を念入りに行います。
内観調査で把握できる情報は限られているため、内観調査の情報だけを基にして申告誤りを指摘してくることはありません。
しかし、事業者が売上や経費に関する資料を適切に管理していないときは、お店の繁盛具合から所得金額を推計し、課税する場合があります。

外観調査

外観調査は、店舗がある場所や立地条件などから売上を推測する調査です。
飲食店の場合、売上は立地条件に大きく左右されますので、駅前など条件の良い場所に店舗を構えているのにもかかわらず売上が少ない場合、税務署は過少申告を疑います。
駅前に店舗がある場合には、客の出入りの状況から1日に来店する人数を推測することもあります。
内観調査と同様、外観調査で調べた内容だけで申告誤りを指摘することはありませんが、実地調査の際には客単価や客の回転数、その場所に店舗を構えた理由などは尋ねられますので注意してください。

調査の下見が行われやすい事業者

内観・外観調査は調査対象者全員を対象に行うことはなく、下見されるのは一部の納税者に限られます。

無申告者

申告書を提出していない事業者は、税務調査を実施する前に内観調査・外観調査が実施されている可能性が高いです。
税務署は無申告の納税者に関する情報や資料を多くは保有していませんので、税務調査を実施する前に可能な限り情報・資料収集に努めます。
また確定申告書を提出していない事業者であっても、事業が赤字であれば増差税額を得ることができないため、無申告の事業者に対して調査を実施するか判断するために内観調査と外観調査を行うこともあります。

飲食業

飲食業は、内観・外観調査を実施されやすい業種です。
下見をされやすいのは、飲食業は現金商売であるため、売上除外や経費の水増しが行われやすい業種であることが要因の一つです。
レジスターなど売上を集計する機器等を用いていない事業者は、売上の管理がずさんであることが多いため、内観調査ではレジスターの有無を必ずチェックします。
レジスターを使用している事業者であれば、レシートの控えで記帳等を行うことができますが、レジスターがない業者は売上をどのように管理しているのか調査時に質問されますので注意してください。

サービス業

サービス業も、内観・外観調査が行われやすい業種の一つです。
経費を水増しする手法として領収書の偽造は行われやすいことから、内観調査では領収書をどのように発行しているかも確認します。
対個人で事業を行っているサービス業については、領収書を偽造しても利用者に影響することはほとんど無いため、偽造しやすい条件が揃っています。
内観調査では発行した領収書や現金の管理方法もチェックしていますので、普段からの管理のしかたには気を付けてください。

まとめ

内観調査や外観調査は税務調査を実施する前の段階で行われますので、納税者が内観・外観調査を防ぐ方法はありません。
しかし、下見をされたとしても適正に申告していれば問題が出ることはありませんし、下見で疑義が生じなければ、税務調査が実施されずに済むこともあります。
税務調査を100%回避するのは難しいですが、対策を講じることで調査を受ける確率を下げることは可能ですので、専門家に相談しながら調査対策を講じてください。

おすすめの記事