廃業後も税務調査は実施される。狙われやすい事業者の特徴と注意点 

税務調査は主に個人事業主や企業に対して実施されますが、事業を営んでいる時だけでなく、廃業後に調査が行われることもあるので要注意です。
本記事では、廃業後に税務調査が行われる理由と、調査対象者となりやすい事業者の特徴を解説します。

廃業後に税務調査が実施される理由

税務調査は対象期間内の申告に誤りがある場合、廃業後でも実施することが認められています。

法律上の調査対象期間は最長7年

税務調査が法律で認められている実施期間は、申告期限から5年です。
廃業したのが5年以内であれば、事業を継続していなくても調査を受けることはありますので注意してください。
また、意図的な税金逃れをしている場合には、調査期間が最長7年と2年拡大します。

廃業が税務調査を実施する契機になることもある

事業者への税務調査は、単年ではなく複数年分の申告を対象にすることが多いです。
税務署は申告書を提出した時点で申告誤りが判明したとしても、税務調査をすぐに行わず、翌年以後に複数年分の申告書をまとめて調べることもあります。
また廃業した事業者は、その後に提出される申告がないため、廃業したタイミングがその事業者を調査する最後の機会です。
そのため、廃業した直後は事業を営んでいる期間よりも、税務調査を受ける確率が上がります。

廃業した後に行われる税務調査の特徴と注意点

廃業した後に実施される税務調査は、通常の調査よりも調査担当者の対応が厳しくなることが想定されます。

調査の実施方法は基本的に同じ

税務調査の方法は、どのタイミングで実施する場合でも基本的に同じです。
税務署の調査担当者が自宅に訪れる調査は「実地調査」といいますが、実地調査が行われる際は事前に担当者から連絡が入ります。
無申告者や税務調査から回避する可能性がある納税者に対しては、無予告で実地調査が行われることもありますが、廃業に関する届出等を提出していれば基本的に無予告で調査が実施されることはないです。

通常よりも指摘を受ける可能性が高い

廃業した後に調査を行う場合、税務署は増差税額の発生する事案と見込んでいる可能性が高いです。
債務超過により倒産した法人は、利益が算出されないので税務調査を受ける確率は低いですが、経営不振以外の理由で廃業するケースでは利益が出ていることもあります。
なお、税務調査は税収を増やすことを目的に実施されますので、増差税額の発生する見込みのない納税者を対象に行われることはありません。

法人成りに伴う廃業は調査対象になりやすい

法人成りに伴う廃業は、利益が発生していることが多く、調査対象となりやすいです。
個人事業主の際に作成した帳簿等と、法人成りをしてから作成した帳簿等の内容が異なれば調査で指摘されますので、法人成りを行う際はより正確な帳簿等の作成が求められます。
また、法人として起業するケースと違い、法人成りは個人から法人に事業資産を移す作業が必要となりますが、資産の移転時に課税関係が生じる可能性があるので注意してください。

廃業する際に気を付けるべきポイント

廃業する際は税務署にも届出等の提出が必要ですが、提出を怠っていると実態解明のために調査が実施されることがあります。

確定申告書の提出は廃業した事業年度も必要

事業年度の途中で廃業したとしても、廃業までの期間の収支を計算し、申告書を作成しなければなりません。
法人が廃業する際は資産を処分することになりますが、債務超過でない法人は、資産の処分により利益が発生することがあります。
個人事業主は廃業する際に発生した損失を、給与所得など他の所得と損益通算することができます。
損益通算することで課税所得金額が下がれば、税負担は軽減されますので、赤字でも忘れずに手続きしてください。

経費計上できる支出の分別に注意すること

廃業時は資産の処分など、色々な作業を行うため、仕訳等が煩雑になりやすいです。
廃業する際に発生した費用は経費として計上することができますが、事業に関係のない支出については経費計上できません。
個人事業主は公私の支出を分けなければならず、税務署は私用の備品や設備関連費の経費計上を厳しくチェックしますので、経費となる支出の分別にも注意を払ってください。

書類等の保存義務は廃業後も継続する

事業者には、取引内容を記した帳簿を作成するだけでなく、帳簿と取引等に関して作成または受領した書類を保存する義務があります。
保存期間は、事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間となっており、廃業後も保存期間の対象です。
法人の場合、青色申告書を提出した事業年度青色繰越欠損金が生じた事業年度については、保存期間が10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)と、通常よりも長く設定されています。

<主な帳簿・書類に該当するもの>

帳簿 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など
書類 棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書など

税金逃れとみなされれば重加算税の対象になる

税務調査で申告誤りを指摘された場合、本税だけでなく加算税・延滞税も支払うことになります。
加算税には、「過少申告加算税」・「無申告加算税」・「重加算税」の3種類あり、申告誤りを指摘された状況によって課される加算税の種類は異なります。
期限内に申告書を提出している場合には、税務調査による修正申告時に過少申告加算税として10%が課されます。
無申告加算税は期限内に申告していない場合に課される罰則で、税率は15%です。
仮装隠蔽行為など、税金逃れをする意思があったとみなされたときは、重加算税の対象です。
過少申告加算税の代わりに課される重加算税の税率は35%、無申告加算税の代わりの場合は40%の税率が適用されますので、脱税行為には相応のリスクが伴います。

廃業時に税務調査対策としてやるべきこと

廃業した後に税金対策を講じることはできませんが、税務調査を回避するために実施できることはあります。

事業に関係する書類は必ず整理する

事業活動は廃業のタイミングで終了しますが、帳簿や書類の保存義務は廃業後も継続します。
帳簿や書類が保存されていない場合、脱税が疑われることもありますし、調査対象年分が拡大することも考えられます。
調査時には帳簿等の提示を求められますので、経費計上を否認されないためにも、領収書などを提示できるよう、帳簿書類を整理し保存してください。

領収書等の再発行依頼は早めに実施すること

税務調査の連絡が入ってから実地調査が行われるまで、1週間から1か月程度の猶予がありますので、調査日までの間に調査対象期間の申告に関係する書類を準備することになります。
領収書を紛失した際は、取引先等に再発行依頼するなどの対処方法があります。
ただ廃業後しばらく経過してから再発行を依頼しても断られることがありますので、紛失が判明した時点ですぐに対応してください。

まとめ

個人事業主として活動する人や法人の設立件数は年々増加しており、開業・廃業を繰り返すことで税金逃れをしている事例もあることから、廃業した後の事業者に対しても税務調査を行っています。
税務署の立場からすると、廃業後の税務調査は申告誤りを指摘するラストチャンスなので、通常よりも調査対応が厳しくなります。
税務調査は受けないことが最善ですので、経営している時点から税理士に相談し、対策を講じることが望ましいです。

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