個人事業主が法人成りをしたタイミングで税務調査を受ける理由

法人を設立した直後は、一般的に税務調査を受けにくいとされています。
しかし、個人事業主が法人成りをした場合については、法人成りをして間もない時期でも調査対象になる可能性があるので注意が必要です。
本記事では、法人成りが税務調査の対象になりやすい理由と、調査を回避するためのポイントについて解説します。

個人事業主が法人成りをすると税務調査を受けやすくなるのか

税務調査は、個人・法人問わず受ける可能性がありますが、調査対象となる確率は経営者の人格(個人・法人)によって違います。

確率的には法人の方が税務調査を受けやすい

申告件数に対する調査件数で比較した場合、法人の方が個人よりも調査を受けやすいです。
法人税の申告件数は年間300万件程度で、実地調査を受ける確率は年3%~4%程度とされています。
一方、所得税の申告書の提出件数は令和4年分で2,295万件を超えており、事業所得者に限定しても379.4万件の提出があります。
個人事業主に対する実地調査件数は法人よりも少なく、税務調査を受ける確率は年1%程度とされていますので、確率的には個人事業主が法人成りをすると調査を受けやすくなります。

同じ事業規模であれば個人事業主の方が調査対象になりやすい

申告件数と調査の実施件数の比率で考えた場合、個人事業主よりも法人の方が調査を受けやすいです。
しかし、法人と個人事業主の事業規模が同程度であれば、個人事業主の方が調査対象になる可能性が高くなります。
税務署が調査対象者を選定する際の要素の一つに、事業規模の大きさがあります。
事業規模が大きければ売上や経費の額は増え、申告漏れを指摘した際の増差税額は多くなることから、税務署は規模の大きい事業者を中心に調査を実施する傾向にあります。
事業規模の大小の基準は法人と個人で異なり、個人事業主で数千万円の売上がある場合、個人事業主の中では上位に分類されるため、税務署から狙われやすいです。
それに対し、事業者の人格が法人である場合、売上数千万円は法人の中では規模の小さい企業に分類されますので、法人成りをした後の事業規模が変わらなければ個人事業主時代より調査を受けにくくなると考えられます。

法人成りと税務調査の関係性

税務調査は申告期限から5年間実施することが認められており、個人事業主としての活動を終了したとしても、調査期間が終了することはありません。

法人化した後でも個人事業主時代の申告に対する調査は実施される

法人成りをした直後は法人としての実績がほとんどありませんので、法人に対しての調査が行われることは少ないですが、法人成りをしたことで個人事業主としての活動が終わることから、終了するタイミングを節目として税務調査が行われることがあります。
税務調査は増差税額を得る目的で実施しますので、経営難で廃業する事業者を調査しても増差税額は算出されないことから、調査を受ける可能性は低いです。
しかし、法人成りをするために個人事業主を廃業する方については、利益が出ていることが多いことから、調査を受けやすい傾向にあります。

法人税の調査は4年目から実施されやすくなる

事業者に対する調査は、単年ではなく複数年分の申告をまとめて調査対象とします。
税務署は申告期限から5年間調査することが認められていますが、法律で認められた範囲すべてを調査対象とすることは少なく、一般的な実地調査であれば3年分の申告書を調査対象とします。
事業者として活動している期間が長くても、法人成りをした事業者は法人として申告したことがありませんので、法人に対する税務調査は3年分の申告書が提出された後に実施されることが多いです。

法人成りが原因で税務調査を受けるケース

法人成りを理由に税務調査が実施されるのは、以下の3つが考えられます。

法人成りに際して不正が行われている疑いがある

法人は個人事業主よりも信用力が高いので融資を受けやすく、取引をスムーズに行うことができますし、利益が一定以上発生している場合には、法人税として税金を納めた方が節税になります。
しかし、法人成りをする事業者の一部には租税回避目的で法人成りをする方もいることから、税務署は法人成りの経緯について確認することがあります。
また法人成りを行うときは個人から資産を移すことになりますが、譲渡資産の移転する場合には税務上の損益を計算しなければなりません。
個人事業主に譲渡資産の売却益が発生していれば申告する必要がありますが、譲渡に関する申告が行われていない場合、実態解明のために税務調査が実施される可能性があるのでご注意ください。

個人事業主と法人で申告内容が相違している

個人事業主時代に申告していた内容と、法人税の申告の内容が大幅に変化している場合、申告内容の変化を確認するために税務調査を行うことがあります。
個人と法人では税務上の取り扱いが異なる部分も多いため、申告内容に変化が出ること自体に問題はありません。
ただし、法律の解釈違いから申告誤りを指摘されることもありますので、法人成りをする際は税務上の個人と法人の相違点について確認してください。

法人として活動してから売上が大幅に増加した

法人成りをすることで事業者の人格は個人から法人に変わりますが、事業内容が大きく変化することはそこまでありません。
しかし、法人化したことで事業を大きく拡大し、売上が伸びた場合、税務調査の対象となりやすくなります。
脱税行為は利益が多く発生したときに行われることから、業績が好調な状況にあるときほど、適正な申告を行うことが重要です。

法人成りを行う際の注意点

税務調査を受けないためにも、法人成りをするときは次の事項に気を付けてください。

個人事業主時代の書類は破棄せず保存する

個人事業者から法人に移行したとしても、個人事業者時代の帳簿書類の保存期間が短くなることはありません。
税務署にとって、廃業したタイミングは税務調査を実施するラストチャンスなので、個人事業主を廃業した後も、帳簿書類は引き続き保存してください。

みなし譲渡に該当しないように資産を移転する

譲渡資産を個人から法人に移転した場合、課税関係は必ず確認されます。
譲渡資産は時価で売却したものとして計算することになるため、売却金額が適切であるかチェックされます。
売却金額が時価の1/2未満の場合、時価で譲渡したとみなされるので税負担が重くなる可能性が高く、譲渡損失が発生した場合については、損失がなかったものとみなされますのでご注意ください。

調査対策は回避だけなく受けた場合も想定する

税務調査の対策は、調査を回避する目的だけでなく、調査を受けたときも想定して講じる必要があります。
税務調査は受けないことが最善ですが、事業規模が大きくなれば調査を受けやすくなりますし、法人成りをすることで税務署の目にも止まりやすくなります。
ただ調査対象者に選定されたとしても、申告内容に誤りが無ければ追徴税額を支払うことになりませんし、意見を主張し証拠書類を提示できれば、無理やり経費の否認等を受けることもありません。
調査対象者と対等に渡り合うためには専門知識が不可欠ですので、普段から税理士と協力しながら対策してください。

まとめ

法人成りをすることで事業を拡大できるだけでなく、節税効果も期待できますが、法人成りが税務調査を実施する動機になってしまうことがあります。
そのため法人成りを行う際は事前に税理士へ相談し、計画的に事業者の人格を個人事業主から法人に移行してください。

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