国税当局が実施する任意調査と強制調査の違いとは

国税当局が実施する調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類あり、どちらの方法で調査を実施するかは国税当局が判断します。
本記事では、任意調査と強制調査の概要と、それぞれの調査手法の違いについて解説します。

任意調査

一般的に税務調査と呼ばれている調査は「任意調査」であり、事業規模の大小に関係なく調査対象になる可能性はあります。

任意調査の概要

任意調査とは、納税者の同意の下で実施される調査です。
税務調査は申告内容の適否を確認することを主な目的としているため、申告内容に誤りが判明している場合だけでなく、申告内容に疑義が生じている際も任意調査を実施することがあります。
調査を担当する税務調査官には質問検査権が付与されており、調査担当者が必要であると判断すれば、納税者だけでなく代理人や使用人、その他の従業者などを対象に調査することも可能です。
納税者が調査に協力することが前提となっていることから、納税者の同意なしに自宅や事務所に入り、書類等を調べることはありません。
ただし、任意調査であったとしても調査自体を拒むことはできませんし、状況によっては予告なしに調査担当者が自宅等を訪れることもあるので注意が必要です。

任意調査を担当する国税当局の職員

任意調査により税務調査を実施するのは、税務署や一部の国税局職員です。
税務署は全国に524か所あり、納税者が任意調査を受けることとなった場合、基本的には管轄税務署の職員が調査担当者となります。
調査を行う職員は新人からベテランまで様々ですが、事業規模や売上が大きい事業者に対しては一般部門の職員ではなく、特別国税調査官(通称:トッカン)が調査を担当します。
大企業など税務署では対応が難しい事案については、国税局職員が調査を担当することが多いです。
国税局の調査担当者は選ばれた職員であることから、税務署職員よりも調査対応が厳しくなることが想定されますが、任意調査であれば実施される調査内容は基本的に同じです。

任意調査で行われる調査の特徴

任意調査には、「実地調査」・「実地調査以外の調査」・「行政指導」の3種類あります。
実地調査は、調査担当者が納税者の事務所や自宅に赴き調査する方法です。
実地調査は原則として、事前に調査を実施する旨を調査対象者に伝えなければならないため、調査前に連絡が入ります。
ただし、調査を実施することを予告することにより証拠隠滅など、調査を実施することに支障が出ると判断される場合においては、無予告で実地調査が行われることもあります。
無予告調査は無申告の納税者に対して実施されることが多いですが、日程調整に応じないなど、調査に非協力的な態度を示している納税者に対して行われることもあるので気を付けてください。
実地調査以外の調査は、納税者を税務署に呼び出して調査を行う手法で、申告内容について指摘する事項が明確であるときに実施されることが多いです。
実地調査に比べて調査対応に要する日数は少ないですが、申告内容に誤りがあれば実地調査と同様、追徴課税の対象となります。
行政指導は法律上の税務調査ではありませんが、税務署が納税者に対して自主的な申告内容の見直し等を促す際に用いられる手法で、行政指導により自主的に修正申告(期限後申告)を行った場合、加算税は軽減されます。
なお、行政指導に応じないと実地調査や実地調査以外の調査に切り替え、調査が行われることもありますので注意してください。

任意調査で申告誤りを指摘された場合の罰則

任意調査で申告誤りを指摘された場合には、本税に加えて加算税・延滞税を納めることになります。
加算税は申告誤りに対するペナルティで、所得税や法人税等の調査を受けた際に賦課される加算税は、「過少申告加算税」・「無申告加算税」・「重加算税」の3種類です。
税務調査を受けた場合、基本的には過少申告加算税が課されることになりますが、無申告や期限後申告の内容を指摘された場合には無申告加算税が賦課されます。
重加算税は、申告内容に仮装隠蔽があった際、過少申告加算税や無申告加算税の代わりに課される加算税です。
加算税の中で最も重いペナルティであり、無申告加算税の代わりに課される加算税の税率は40%です。
延滞税は納付が遅れたことに対するペナルティで、納付が完了するまでの日数に応じて税額を計算します。
期限内に申告書を提出したとしても、納付が完了していなければ延滞税は発生しますので、確定申告は申告だけでなく、納付も期限までに済ませることが大切です。

強制調査

強制調査は脱税犯を対象とした調査で、対象となる納税者は限られます。

強制調査の概要

強制調査は、納税者の同意を得ずに実施することが認められた調査方法です。
脱税の疑いがある納税者を対象に実施する調査なので、一般の納税者が強制調査を受けることはなく、国税当局が強制調査を行うためには裁判所の令状を要します。
脱税犯の調査は任意調査で実施されることもありますが、脱税額が高額になると見込まれるケースなど、悪質性が高いものについては強制調査が行われます。

強制調査を担当する国税当局の職員

強制調査を実施するのは、「マルサ」でも知られる査察部です。
査察部は国税局の部署の一つで、実施する調査は強制調査に特化していることから、強制調査は「査察調査」と呼ばれることもあります。
強制調査の担当者は査察部に所属する職員で、税務署の職員が強制調査を実施することはないです。

強制調査で行われる調査の特徴

強制調査は裁判所から令状を得た時点で、対象となる納税者を強制的に調べることができるため、調査の事前予告はありません。
納税者は調査を拒否することはできず、自宅や事務所にある書類等を調べるだけでなく、押収されることもあります。
任意調査は原則調査を実施する旨の連絡があったため、調査当日までに顧問税理士と調査対策を練ることもできますが、強制調査は査察が突然自宅等に訪れることから、前もって対策をすることが困難です。

強制調査で申告誤りを指摘された場合の罰則

強制調査は脱税の疑いがある納税者を対象としますので、増差税額は基本的に重加算税の対象になる可能性が高いです。
任意調査とは違い、強制調査を受けた際に刑事告発されることがあり、告発件数は70%前後で推移しています。
令和4年度の告発率は74.1%と、査察調査を受けた4件に3件は刑事告発されており、一審判決の有罪率は令和3年度と4年度は連続して100%です。
また、有罪判決を受けた中で実刑判決が下った納税者もいますので、強制調査を受けることによるリスクは想像以上に大きいです。

任意調査と強制調査を受ける確率

国税当局が実施する大部分の調査は任意調査であり、強制調査の対象となる納税者はほんの一握りです。
任意調査(実地調査)を受ける確率は、法人税については年3~4%、所得税は年1%程度とされています。
任意調査であったとしても、租税回避行為は重加算税の対象になりますし、調査時の虚偽答弁は重加算税の課税要件を満たすことになるので、調査対応のしかたにも注意してください。
査察が実施している調査件数は年間200件以下と少なく、基本的には脱税額が1億円を超える見込みの事案を対象にする傾向にあります。
ただ最近では、脱税額が1億円以下であっても強制調査が実施されている事例も発生していますので、脱税を行った時点で相応のリスクが伴っていることをご理解ください。

まとめ

国税に関する調査を受ける場合、基本的には任意調査であり、大部分の調査においては税務署の職員が調査担当者となります。
税務調査の対象となれば70%以上の確率で非違事項を指摘され、追徴課税を支払うことになりますし、脱税額が高額だと査察が動く可能性もありますので、納税額の大小にかかわらず適正申告を心掛けてください。

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