法人に対する税務調査の実施件数と調査対象となりやすい業種の特徴 

税務調査は個人・法人問わず実施され、毎年多くの納税者が調査を受けています。
一方で、調査対象者となる確率は業種などによって異なり、活動しているすべての事業者が調査対象となるわけではありません。
本記事では、法人に対する税務調査の実施件数と、調査対象となりやすい業種の特徴について解説します。

企業が税務調査を受ける確率

税務調査が実施される割合は全体の数%ですが、利益を出している企業に限定した場合、調査対象となる確率は10%程度に上昇します。

法人税の調査件数は年間10万件以上

国税庁は、企業に対する税務調査の実績を毎年公表しており、「令和3事務年度法人税等の調査事績の概要」によると、令和3年事務度において実地調査が法人税の行われた件数は41千件です。
法人税は毎年300万件提出されますので、単純計算すると提出された申告書の1.4%は実地調査を受けていることになります。
税務署が行っている調査は実施調査だけでなく、書面や電話で来署依頼をし、納税者に対して自発的な申告内容の見直しなどを要請する、「簡易な接触」による調査も実施しています。
令和3事務年度の簡易な接触による調査は67千件、実地調査件数と合計すると10万件を超えることから、法人税の申告をしている企業の3~4%は毎年税務調査を受けている計算です。

税務調査を受ける実際の確率は10%

税務調査は申告内容の真偽を確かめ、内容に誤りがあった場合に指摘し本来納めるべき税金を支払わせる目的で実施します。
提出した申告書はすべてチェックしますが、申告内容に誤りがあったとしても納税額が増える見込みが無ければ調査するメリットは乏しいため、調査を行うことは殆どありません。
令和3年度に提出された申告書は306.5万件ですが、そのうち黒字申告の割合は35.7%と、3件のうち2件は利益が発生していない申告です。
納税額が発生していない法人の中にも、利益と繰越損失の額を相殺している場合や、赤字を装った申告もありますので、黒字申告以外の申告が調査対象から除かれるわけではありません。
しかし税務調査は基本的に黒字申告を行った企業を対象としますので、会社が利益を生み出している場合、税務調査を受ける確率は10%程度あると推察されます。

税務調査で申告誤りの指摘を受ける確率

税務調査を受けたとしても、必ず申告誤りが指摘されるわけではありませんが、確率的には指摘される可能性がかなり高いです。

調査を受けた4件に3件は申告誤りを指摘される

令和3事務年度の実地調査件数は41千件でしたが、その中で非違があったのは31千件と、75%の企業が税務調査を受けた際に申告誤りを指摘されています。
調査1件当たりの申告漏れの所得金額は1,478.8万円と、1,000万円単位で申告誤りが指摘されることも珍しくありません。
また追徴税額は352.8万円となっているため、税務調査を受けたことで新たに納めることになる税額が数百万円発生することもあるので注意が必要です。

22%の企業は税務調査で不正を指摘されている

実地調査の41千件のうち、不正計算があった件数は9千件と、22%の企業は税務調査で不正計算があったとされています。
一般的な申告誤りと不正計算の違いとしては、意図的に税金逃れをしているか否かです。
計算ミスで申告誤りを指摘された場合、課される加算税は「過少申告加算税」または「無申告加算税」ですが、脱税を行った企業に対しては「重加算税」が課される可能性があります。
重加算税のペナルティは非常に重く、過少申告加算税の税率が10%なのに対し、重加算税の税率は35%(無申告の場合は40%)です。
また税務署に不正が指摘された場合、その後に提出される申告書のチェックはより厳しくなりますし、少しでも申告内容に誤り・疑義があれば短い期間で税務調査が実施されますので、脱税行為は厳禁です。

税務調査の対象となりやすい業種と特徴

税務調査の対象となりやすいのは、不正発見割合の高い業種や、不正所得金額の大きな業種です。

<令和3事務年度における法人税の不正発見割合の高い10業種>

順位 業種目 不正発見
割合
その他の道路貨物運送 32.8%
医療保健 31.2%
職別土木建築工事 29.6%
土木工事 28.7%
その他の飲食 28.4%
化粧品小売 28.0%
美 容 28.0%
機械修理 27.9%
一般土木建築工事 27.3%
10 貨物自動車運送 27.3%
<令和3事務年度における法人税の不正1件当たりの不正所得金額の大きな10業種>
順位 業種目 不正1件当たりの
不正所得金額
情報サービス、興信所 72,887千円
自動車・同部品卸売 64,723千円
鉄鋼製造 63,696千円
運輸附帯サービス 55,379千円
その他のサービス 52,957千円
建売、土地売買 50,098千円
その他の金属製品製造 42,744千円
化粧品小売 35,521千円
その他の不動産 34,613千円
10 印刷 34,396千円

出典:令和3事務年度法人税等の調査事績の概要

不正発見割合の高い業種や不正所得金額の大きな業種は、税務調査を実施する費用対効果が高いため、税務署も積極的に調査対象とします。
年によって上位にランクインする業種は異なりますが、毎年のように上位に名を連ねる業種は特に調査対象になりやすく、他の業界で活動している企業に比べて税務調査を受けるリスクは上がります。

新たに誕生した業界は調査対象となりやすい

不正発見割合が高い業種以外にも税務調査を受けやすいのが、新たに誕生した業界です。
新たに誕生した業界は、既存の業界よりも税に関する知識が身に付いていないことが多いため、税務署は適正申告を促す意味合いを兼ねて税務調査を実施することがあります。
たとえば仮想通貨は最近誕生しましたが、国税当局は仮想通貨取引に関する申告漏れの摘発に力を注いでおり、個人であったとしても脱税を摘発するだけでなく、刑事告発した事例も発生しています。
また、既存の業界は関係する法律が整備されている一方で、誕生して間もない業界は法整備が追い付いていないことから、法整備がされるまでの間は既存の法律をベースに解釈しなければなりません。
解釈違いにより、納税者側と税務署側で意見が分かれることも多く、税務調査で計算方法等が否認されることもありますので、申告する際は専門家に相談するなどの対策が必要です。

税務調査リスクを下げるための対策のしかた

税務調査を受けやすい業界で黒字申告を行っている企業は、他の企業よりも税務調査を受ける確率が高くなることは避けられません。
しかし国税当局が実施できる調査件数には上限があるため、適正に申告している企業と認識されれば、税務調査の対象となる確率は下がります。
調査対策として基本事項として、期限内申告はもちろんのこと、細かな計算ミスや提出書類漏れを無くすことが大切です。
ミスが発覚した場合、そこから申告内容についての詳細なチェックが入り、税務調査に発展することもありますので、税務署に調査を行わせる動機を与えてはいけません。
万が一税務調査を受けることになったとしても、申告内容に誤りが無ければ追徴税額を支払うことにはならないので、正しい申告書を提出することが最大の調査対策です。

まとめ

税務調査を100%回避することは難しく、長年に渡り事業を営んでいる会社であれば、いつかは調査を受けることになります。
しかし適正申告を行っていれば、追徴税額の支払いを回避できますし、税務調査が実施される周期を延ばすことが可能です。
そのため調査対策は事業規模の大小に関係なく講じていただき、対策のしかたで不明点があれば、調査を受ける前に税理士へ相談してください。

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