源泉所得税も税務調査の対象。指摘されやすいポイントと注意点

源泉所得税の納税義務者の範囲は広く、個人・法人問わず調査対象になる可能性があります。
本記事では、税務調査で調査担当者が確認する事項と、指摘されやすいポイントについて解説します。

源泉所得税とは

源泉所得税は、給与や報酬を支払う方が支払金額に応じて納める税金です。
国に対して源泉所得税を納める義務がある方を「源泉徴収義務者」といい、源泉徴収義務者には会社や個人だけではなく、給与などを支払う学校や官公庁、人格のない社団・財団なども含まれます。
源泉徴収納税義務者は原則として給与などを実際に支払った月の翌月10日までに、源泉所得税を納付しなければなりません。
税務署で源泉所得税を扱っている部署は、法人課税部門の源泉所得税担当です。
源泉所得税を単独で調査することもありますが、法人税や消費税、印紙税などの税目と同時に調査を実施することもあります。
調査担当者が事務所等に訪れて調査を行う「実地調査」では、事前通知の際に調査対象となる税目が伝えられますので、源泉所得税に対して調査を行う旨の連絡があった際は関係書類を準備する必要があります。

源泉所得税の税務調査のチェックポイント

源泉所得税の税務調査では、次のポイントを必ずチェックします。

年末調整の計算および添付書類

源泉所得税の税務調査で必ず調べるのが、年末調整の計算内容と提出されている書類です。
会社員が確定申告をする必要がないのは、年末調整で税金の精算を行っているからですので、年末調整の内容に計算誤りがあれば納税が適切に行われていないことを意味します。
そのため調査担当者は、税務調査の際に年末調整の誤りがないかを確かめるために、年末調整に関する計算の内容をチェックします。
従業員等が所得控除を適用する場合、扶養控除申告書等に必要事項を記載し、添付書類を提出することになりますが、書類の添付漏れは税務調査で指摘されやすい項目の一つです。
ミスが発生しやすい部分は調査担当者も理解していますので重点的に調べますし、従業員の出入りが多い企業の場合、勤務状況も細かくチェックされますので注意してください。

従業員等への経済的利益の供与

会社の経費として計上している支出の中には、従業員の給与に該当するものも存在します。
福利厚生や旅費など、金銭で渡していないものであれば給与に含まれないと誤認しているケースもありますが、給与には金銭だけでなく現物供与も含まれます。
一部の会社には給与課税を回避するために、金銭以外の方法で従業員等に供与していることもあるため、税務調査では従業員等に対して行われた経済的利益の供与の実態についても確認します。

<税務調査官が確認する経済的利益の供与に関する事項>

  • 社内規定により支払われた手当等
  • 福利厚生費
  • 旅費
  • 交際費
  • 海外関連の支出

報酬・料金等に対する源泉徴収漏れ

源泉所得税は、従業員等への給与以外に、税理士や司法書士等へ支払った報酬・料金等も対象です。
報酬・料金等の支払者が交通機関やホテル、旅館等へ通常必要な範囲の交通費や宿泊費などを直接支払っている場合には、報酬・料金等に含めなくてもよいことになっています。
一方で、謝礼や取材費、車代などの名目で支払われたものについては、実態が報酬・料金等と同様であれば、源泉徴収の対象となりますので気を付けてください。

退職金に対する源泉徴収漏れ・計算誤り

従業員等へ退職金を支払った際も源泉所得税の課税対象となりますが、退職所得は他の所得と計算方法が異なります。
退職所得控除額は勤続年数によって違いますし、「特定役員退職手当等」に該当する部分は計算が別途規定されていますので、計算誤りが発生しやすいです。
役員の退職金が不当に高額な場合、法人税の損金不算入に該当することとなるため、退職金の計算はもちろんのこと、支給額も確認します。

非居住者等に対する支払い状況

非居住者および外国法人については、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみ課税対象となり、国内の源泉徴収対象となる国内源泉所得の支払者は、支払い時に源泉徴収義務が発生します。
国内源泉所得の支払いが国外において行われる場合には、原則として源泉徴収の必要はありません。
しかし、支払者が国内に住所もしくは居所を有し、または国内に事務所、事業所その他これらに準ずるものを有するときは、その支払者がその国内源泉所得を国内において支払ったものとみなし、源泉徴収をする必要があります。

税務調査で源泉所得税が指摘されやすいポイント

税務調査において、源泉所得税の誤りが指摘されやすいポイントは次の3つです。

年末調整での計算ミスおよび添付書類漏れ

従業員が多い企業ほど、年末調整の対象となる人数も多くなるので、その分だけ計算ミスが発生する確率が上がります。
従業員が作成した「給与所得者の扶養控除等の(異動)申告書」は内容に誤りがあることを想定してチェックし、計算ミスが発生しないよう注意してください。
また、シフトや残業により個々の給与の変動が激しいと計算ミスが起こりやすいため、勤務時間の管理を徹底することも大切です。

源泉徴収漏れ

報酬に対する源泉所得税は士業だけでなく、フリーランス等に対するものも含まれます。
税理士等に毎月または毎年支払っている報酬であれば、報酬額も一定であるため源泉所得税の支払漏れは起こりにくいです。
しかし、個人や企業にはじめて依頼する場合や、単発取引に対する報酬は源泉徴収が漏れやすいことから、税務調査でチェックされます。
また税務署は、報酬を受けた人の確定申告書でも源泉徴収の有無を確認できますので、事前に源泉徴収が必要になるケースを確認し、忘れずに徴収してください。

給与所得の対象となる支出の有無

通勤手当は所得税の非課税対象ですが、非課税限度額を超える額は課税対象です。
従業員の個人的な旅費や飲食費は給与に該当し、源泉徴収漏れが判明した場合には追加で源泉所得税を納付することになります。
年の途中で海外に出向した従業員がいる場合、国内勤務に対する給与が源泉所得税の課税対象となることから、調査では出向したタイミングについて聴取されます。
出向した従業員の活動状況や、入出国の時期が課税時期の判断材料となるため、調査を受けたときに関係書類を提示できるよう準備してください。

源泉所得税の徴収漏れに対するペナルティ

所得税や法人税の場合、「過少申告加算税」や「無申告加算税」が課されますが、源泉所得税の徴収漏れについては「不納付加算税」の対象です。
不納付加算税は、差額本税に対して10%の税率が適用されます。
正当な理由がある場合や、法定納期限から1月以内にされた一定の期限後の納付については、不納付加算税が不適用になることもあります。
しかし、仮装隠蔽があった場合には法人税等の調査と同様、重加算税の課税対象となりますので、源泉徴収漏れを把握した時点で速やかに手続きしてください。

まとめ

源泉所得税は所得税や法人税と同時に実施されることも多く、税務調査を受けることになった場合、源泉所得税に関係する書類等も一緒に用意しなければなりません。
調査時に源泉所得税の誤りが判明すれば、調査範囲が芋づる式で拡大することも考えられます。
税務調査の連絡を受けてから源泉所得税に関する事項をすべて見直すのは困難ですので、日頃から確認を行い、不明点があればその都度税理士に質問するなどして必要な対策を講じてください。

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