税務調査の対象となる医師の特徴と調査時にチェックされる項目

医療関係の業種は調査対象となりやすいため、税務調査を回避するだけでなく、調査を受けることを前提にした対策も必要です。
本記事では、税務調査の対象となりやすい医師の特徴と、税務調査官が調査時にチェックするポイントを解説します。

医師が税務調査を受けやすい理由

医師など、医療関係の業種が税務調査を受けやすいのは、大きく2つの理由が考えられます。

景気による影響が少ない

税務調査は申告誤りを指摘するために行うため、利益が発生している割合が高い業種ほど、税務調査を受ける確率も上がります。
所得税と法人税は利益に対して課される税金ですので、利益が多ければ納める税金が多くなりますし、不正行為等で申告内容を誤魔化す事業者も増えてきます。
経営状態は病院ごとに異なりますが、医療関係の業種は他の業種に比べて景気の影響を受けにくく、景気が悪化しても利益を確保している病院もあることから、税務調査を受けやすいとされています。

1件当たりの申告漏れの額が大きい

税務署が実施できる調査件数には限りがあるため、税務調査には費用対効果を求めています。
税務署にとっての効果は申告漏れを指摘したことで得られる増差税額で、同じ事務量を費やすのであれば、増差税額がより見込まれる納税者に対しての調査を優先して行う傾向にあります。
国税庁は毎年税務調査の結果を公表していますが、令和2事務年度の「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得が高額な業種」で内科医が3位に入っており、1件当たりの申告漏れ所得金額は3,339万円と高額です。
国税局ごとの税務調査の結果では、歯科が不正発見割合の最も高い業種となった事務年度もあるなど、医療関係の業種は想像以上に税務調査で指摘を受けています。

税務調査の対象になる開業医・医療法人の特徴

次のいずれかに該当するクリニックは、医療関係の業種の中でも特に調査対象者となりやすいです。

申告内容に誤りがある

事業者全般に言えることですが、申告内容に誤りがある場合、税務調査を受ける確率は確実に上がります。
申告内容が正しければ税務調査を実施するメリットがありませんが、申告誤りが少しであれば、他の部分についても誤りが無いか詳細にチェックします。
税務署は5年前まで遡って調査することが認められているため、誤りが見つかった年分以前に遡って申告内容を調べ、複数年分の申告書を同時調査することも珍しくありません。

過去の税務調査で申告誤りの指摘を受けている

過去の税務調査で申告内容に誤りが指摘された場合、調査以降に提出される申告書は毎回内容の適否を確認され、申告誤りが発覚すれば税務調査で指摘される可能性が高くなります。
似たような疑義・問題のある申告書が2件提出された際、税務署は増差税額がより得られる可能性のある申告を調査対象として選定しますので、過去に申告誤りを指摘されていると調査対象者に選ばれやすいです。
一方で、税務調査は必ず申告誤りが指摘されるわけでなく、申告内容が適切であれば追徴課税の対象とはなりません。
税務調査で指摘事項がない場合には是認通知書が交付され、申告誤りを指摘されたケースとは逆で、次回以降に調査を受ける確率は下がります。

開業して3年が経過した

税務調査には牽制効果としての役割もあるため、税務署は長期的に事業が営むことが想定されるクリニックを対象に調査を実施することがあります。
事業者を対象とした税務調査は、3年分の申告書をまとめて調査するのが一般的ですので、3年目の申告書を提出後は、税務署が調査対象として選定する可能性が高くなります。
開業してから1年目・2年目の時点で税務調査を受けることは多くありませんが、申告誤りに気が付いていたとしても、まとめて調査するために先延ばしにしているだけのケースもあるのでご注意ください。

前年よりも経費が急増している

法律上の範囲内で経費を増加させ、利益を圧縮する行為に問題はありませんが、架空の費用を計上するなど、脱税行為は違法です。
売上は前年と同程度にもかかわらず急に経費が増えた場合、税務署は経費の水増しをしていないかを確かめるために、税務調査を行うこともあります。

クリニック特有の税務調査のチェックポイント

医師が税務調査を受けた際、調査担当者にチェックされやすいポイントをご紹介します。

収入関連

医師が税務調査を受けた場合、収入関係で指摘を受けやすいのは、収入除外と収益計上時期の誤りです。
自賠責収入の入金先を分けたり自由診療収入を除外することで収入を少なく見せかけるケースもありますし、窓口収入の抜き取りが行われていることもあります。
そのため調査担当者は、調査時に入金先の確認や窓口収入の受け取り方法などを調べます。

経費関連

医療関係では、経費の架空・水増しが無いかチェックします。
医薬品費や診療材料費、医療消耗器具備品費はもちろんのこと、リベートや委託費も脱税の手口として用いられることが多いため、存在の確認と入出金の口座の確認が行われます。

棚卸・減価償却資産

クリニックは棚卸・減価償却資産が多く、医業利益に直接関係してきますので、税務調査で期末時点の在庫数量や単価のチェックが行われます。
方法と実際に用いられている評価方法が一致しているかチェックが入ります。
建物の取得費や設備費は減価償却資産となりますが、病院関連の建物・設備は高額になりやすいことから、減価償却費の基礎となる購入金額が適切であるかを確認します。

個人開業医が調査時にチェックされる項目

個人開業医は、経費計上できる費用が仕事に直接要したものに限られるため、私用支出(家事消費)と医業関連支出を明確に区分する必要があります。
公私で使用しているものは、使用割合等に応じて按分することになりますが、按分割合の根拠も求められることもありますので、使用頻度等などにより設定した按分割合を説明できるよう準備してください。

<個人開業医の税務調査でチェックされる項目>

項目 調査事項
建物
(診療所兼自宅など)
・減価償却費の計上の按分割合
・水道光熱費・通信費の按分割合
車両関係 ・車両ごとの按分割合
・各車両の用途
・車両の利用割合・頻度
接待交際費 ・事業に関連する支出であるか
親族への給与 ・親族従業員の勤務実態
・給与の妥当性

税務調査は周期的に実施されることがある

国税当局は、事業者に対して周期的に税務調査を実施することがありますので、十分な対策を講じたとしても、調査を完全に回避することは難しいです。
しかし、調査を受けたとしても誤りを指摘されなければ追徴課税を支払うことにはなりませんし、適切な申告手続きを行っていると判断されれば、調査周期は長くなります。
10年20年と長いスパンで考えた場合、税務調査を受けないのと同じくらい調査を受けた際に問題点を指摘されないことが重要となりますので、適正な申告書の作成を最優先に取り組んでください。

まとめ

開業医や医療法人は、業種柄事業を継続していれば税務調査を受ける可能性は高いため、税務調査を回避する対策はもちろんのこと、税務調査で申告誤りの指摘を受けないための対策も不可欠です。
税務調査で申告誤りを指摘されれば、税務調査の周期が短くなる可能性がありますし、少しの申告ミスでも税務調査が実施されるようになります。
節税と脱税は意味合いが全く異なりますので、少しでも納税額を減らしたい場合は、法律で認められた範囲内で税金対策を講じてください。

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