仮想通貨取引の無申告者が税務調査を受けやすい理由

ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨は、大きなブームになった以降も取引が活発に行われています。
仮想通貨は株価以上に価値の変動が激しく、短期間で莫大な利益を得られる可能性がある一方で、他の金融商品の売買よりも税務調査を受けやすい点には注意が必要です。
本記事では、仮想通貨取引が税務調査を受けやすい理由と、調査対象となった際の影響について解説します。

仮想通貨取引の税務上の取扱い

個人が仮想通貨取引(暗号資産取引)により生じた利益は、所得税の課税対象となり、所得の種類は原則総合課税の雑所得(その他雑所得)に区分されます。
所得税の総合課税は、利益が大きくなるほど適用税率が上がる累進課税制度を採用しており、最大税率は45%です。
一方、その年の仮想通貨取引に係る収入金額が300万円を超える場合には、仮想通貨取引に係る帳簿書類の保存があるときは原則事業所得、帳簿書類の保存がないときは原則雑所得(業務に係る雑所得)に区分して計算を行います。
事業所得者が事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として暗号資産を使用した場合など、暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものであるときは事業所得に該当しますので、状況によって所得区分が変わる点には注意が必要です。

仮想通貨取引に対する調査事績

国税庁は毎年調査事績を公表しており、仮想通貨取引を行っている個人に対する調査状況は、令和3事務年度から個別に集計するようになっています。
令和3事務年度の仮想通貨取引の個人に対する実地調査は444件実施されており、1件当たりの申告漏れ所得金額は3,659万円と、前事務年度の2,456万円よりも1,200万円以上増加しています。
所得税の実地調査全体の平均は1,337万円ですので、1件当たりの申告漏れ所得金額で比較すると2,300万円以上も多いです。
仮想通貨取引の1件当たりの追徴税額についても1,194万円と、全体平均256万円の4倍以上ですので、仮想通貨取引に関する税務調査を受けた際は、通常よりもペナルティが重くなる可能性があります。

仮想通貨取引が税務調査の対象となりやすい理由

仮想通貨取引が税務調査を受けやすいのは、以下の理由があるため積極的に調査が実施されています。

無申告者が多い

仮想通貨取引が税務調査になりやすい理由の一つに、利益の申告をしていない人が多いことが挙げられます。
上場株式の売買は、特定口座(源泉徴収有)であれば証券会社が売却益に対する税金を天引きするので、確定申告は基本的に不要です。
しかし仮想通貨取引は、株式投資で用いられている税金の天引き制度が存在しないため、利益が発生した場合には本人が申告・納税をしなければなりません。
会社員は会社で年末調整を行うため、確定申告手続きを行ったことがない方も多く、ブームになったタイミングで仮想通貨取引を開始した方は、税に関する知識を十分に有していないことも無申告となる要因です。
税務署の立場からすると、無申告の放置は税収が減ることを意味しますし、無申告を摘発しないと意図的に申告を行わない納税者が増えてしまう恐れがあるため、無申告者に対する調査は重点的に実施しています。

発生する利益の額が大きい

税務署は年間で実施できる税務調査件数には限りがあることから、調査担当者に費用対効果を求めており、多くの増差税額が見込まれる事案ほど調査対象として選出されやすい傾向にあります。
仮想通貨がブームになった際は「億り人」と表現される人が誕生するほど、短期間で多額の利益を得た人がいましたし、先に挙げた税務調査の調査事績からわかるように、仮想通貨に対する実地調査では全体平均よりも多くの増差税額が発生しています。
また、仮想通貨取引は株式売買とは違い、総合課税の雑所得で計算しなければなりません。
株式の譲渡所得は、分離課税なので利益の額に関係なく税率は所得税(復興特別所得税)と住民税合わせて20.315%ですが、仮想通貨取引による利益は総合課税なので合計の最高税率は55.945%です。
数千万円の利益が発生した場合、半分以上は税金として支払うことになることから、申告漏れがあれば税務調査ですぐに指摘されます。

法整備が追い付いていない

仮想通貨は新しい業界であるため、法整備が追い付いていない部分があります。
ビットコインなどが注目された時点では、仮想通貨取引により発生した利益がどの所得区分に該当するかも不透明でしたし、計算方法も分からない部分も多かったです。
現在は国税庁のホームページに仮想通貨の計算方法のQ&Aが掲載されるなど、申告する上で不明確だった大部分は解消されています。
しかし、仮想通貨取引の利益は今も総合課税の雑所得として計算しなければなりませんし、他の投資関係から発生した利益とは扱いが異なる部分が多いため、見解の相違により申告誤りとの指摘を受けることがあります。

仮想通貨取引に関する税務調査を受けるリスク

税務調査の対象となっただけでは追徴課税を支払うことになりませんが、調査を受けた80%以上は非違事項を指摘されているため、追徴課税の対象になる可能性は高いです。

税金を余分に納めることになる

税務調査で申告誤りを指摘された場合、本税以外に加算税・延滞税を納めることになります。
加算税は期限までに申告しなかったことに対するペナルティ、延滞税は期限までに納税が完了しなかったことに対するペナルティです。
申告期限までに申告書を提出した人であれば、差額が加算税・延滞税の対象となりますが、無申告の場合には全額が加算税・延滞税の対象です。
また、無申告に対する加算税の税率は通常よりも高いため、税金を余計に支払うことになります。

抱き合わせによる税務調査の実施

個人が仮想通貨取引を行っている場合、発生した利益は所得税の対象となりますので、調査対象となれば、その年の所得に関しては調査対象となります。
事業所得のみであれば調査対象にならなかった場合でも、仮想通貨取引の利益を申告していなかったことで事業所得についても調査対象となり、申告誤りを指摘される可能性が出てきますので注意してください。

税金が支払えなくなる可能性

所得税や法人税は利益に対しての税金ですので、利益以上に税金を支払うことにはなりません。
しかし投資等で得た利益を全額投資に回している場合、手元に納税資金が残っておらず、税金が支払えなくなるケースがあります。
運用している金融商品を現金化すれば滞納を回避することはできますが、強制的に金融資産を処分し、利益を確定させなければなりません。
仮想通貨は価値の乱高下が激しいため、売却時期を選べないと多額の売却損が発生することも考えられますので、納税資金はあらかじめ確保しておくことが望ましいです。

逮捕されるリスク

税務調査で申告漏れを指摘されたとしても、本税と附帯税を納めるだけで逮捕されることは基本的にありません。
しかし、脱税額が高額な場合には逮捕される可能性があり、仮想通貨取引の無申告者が逮捕された事例も発生しています。
逮捕される脱税額は1億円が基準とされていましたが、金沢国税局が摘発した事例においては、7,000万円台の脱税額でも告発されるなど、1億円未満でも刑事罰の対象になる可能性があります。
そのため、意図的な税金逃れは行わないことはもちろんのこと、仮想通貨取引の利益は忘れずに申告してください。

まとめ

税務調査は5年間実施することが認められているため、過去に得た利益を申告していなかった場合、調査を受ける可能性があります。
事業者が仮想通貨取引を行っている場合、仮想通貨取引の申告漏れが事業所得の調査を実施する引き金となりかねませんので、申告漏れはもちろんのこと、計算誤りにも十分注意してください。

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