国税局が調査を担当するケースと税務署が実施する調査との違い

税務調査は基本的に税務署の職員が行いますが、国税局職員が調査を担当することもあります。
国税局の中でも、調査対象者の事業規模や調査内容によって担当が割り振られていますので、今回は国税局の調査担当部署の種類と、税務署が実施する税務調査との違いについて解説します。

国税局とは

国税組織は国税庁を頂点とする行政機関で、国税庁の下に11の国税局および沖縄国税事務所、その下に524の税務署が設置されています。
国税局の主な業務は国税庁の指導監督に基づいて行う、税務署の賦課徴収事務に関する指導および監督です。
税務調査や税金滞納者への対応は管轄税務署の職員が行いますが、事業規模が大きい法人や滞納税額が多い納税者については、国税局自ら賦課徴収事務を担当することもあります。
国税局で調査を担当する部署は課税部と調査査察部の2つで、どちらの部署も税務署では対応が難しい事案を中心に調査を実施します。

<国税局の種類>

国税局
国税事務所
国税局(国税事務所)が管轄する都道府県
札幌国税局 北海道
仙台国税局 青森県、 岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
関東信越国税局 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、 新潟県、長野県
東京国税局 千葉県、東京都、神奈川県、山梨県
金沢国税局 富山県、石川県、福井県
名古屋国税局 岐阜県、 静岡県、愛知県、三重県
大阪国税局 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
広島国税局 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
高松国税局 徳島県、香川県、愛媛県、高知県
福岡国税局 福岡県、佐賀県、長崎県
熊本国税局 熊本県、 大分県、宮崎県、鹿児島県
沖縄国税事務所 沖縄県

国税局課税部の概要と担当する調査事案の特徴

課税部には以下の部署が存在し、課税部の中で調査を担当している部署は資料調査課と機動課です。

<課税部の主な部署>

  • 課税総括課
  • 個人課税課
  • 資産課税課
  • 法人課税課
  • 消費税課
  • 資料調査課
  • 酒税課
  • 国税訟務官(室)
  • 鑑定官室
  • 資産評価官
  • 統括国税実査官
  • 統括国税調査官
  • 審理課(※)
  • 機動課(※)
  • ※関東信越、東京、名古屋、大阪国税局のみに設置

資料調査課

資料調査課は、通称「リョウチョウ」と呼称されている部署で、所得税・法人税・相続税などの調査を行っています。
主な調査対象者は、申告書を提出している高額納税者で、国税局の調査を受けることになった場合、資料調査課が調査担当となる確率が最も高いかもしれません。
資料調査課の税務調査は税務署職員以上に厳しく、申告している納税者にとっては「マルサ」よりも怖い存在です。
税務調査は脱税犯だけを対象に実施していると思われがちですが、特例の適用誤りや計算ミスを指摘するために調査を行うことも多いです。
たとえば特例制度は、対象期間や該当する資産等の要件をすべて満たしていないと適用できませんので、要件の適否を確認する目的で調査が行われることもあります。
また、経費が否認されるのは納税者のミスだけでなく、国税当局と納税者の見解の相違が原因になることもあるので、税務調査の対応をする際は納税者にも相応の知識が求められます。

機動課

機動課は、相続税や贈与税、譲渡所得に係る所得税等に対しての調査を実施する部署です。
機動課に配置されている職員(機動官)は税務署に配属され、担当エリア一帯の税務署の資料収集や税務調査を行います。
税務署は管轄する地域が決まっていますが、管轄地域内に納税者が関連する会社等が拠点を構えていることは限りません。
また税務署職員の調査権限(質問検査権)は、自身の管轄するエリアの納税者に対してのみ許可されていますので、個人事業主が納税地を他署に移した場合、移転先の納税地を管轄する税務署が調査を行うことになります。
一方、機動官は配置されたエリア一帯を調査する権限を有しており、横断的に調査することが可能であることから、機動官が調査担当者となることもあります。

国税局調査査察部の概要と担当する調査事案の特徴

調査査察部は、調査担当と査察担当に分かれて調査を実施しています。

調査担当

調査担当は、大規模法人等の法人税および消費税に対して調査を実施する部署です。
国税庁ホームページでも、資本金1億円以上の法人や外国法人を調査する部署と紹介されているように、大企業が主な調査対象者です。
事業規模が大きければ、その分だけ経済活動範囲は広く、現代社会においては国際的に活動していることも一般化していますので、調査査察部の調査担当が特化した形で調査を行っています。
また調査担当は、経済状況や社会構造の変化等に応じて、先端的取引の実態解明や新たな調査手法を開発しているのも特徴です。
最近の事例としては、国税局調査部が調査を担当する法人に対して、国税庁の機器・通信環境を利用したリモート調査の試行をしています。

査察担当

査察担当は、「マルサ」でも知られている国税局の調査担当部署です。
資料調査課や調査査察部の調査担当は、申告している納税者を調査担当とすることが多いですが、査察担当は脱税犯など、重要な犯則があると認められる納税義務者を対象に調査を実施しています。
査察担当が行う調査は、一般の税務調査とは異なり、裁判所の令状が必要となる強制調査が行われます。
強制調査は納税者の同意がなく調査が実施できるもので、脱税等の証拠が揃っていないと裁判所の令状は発付されないことから、意図的な税金逃れをしていない納税者が査察調査を受けることはありません。

国税局の調査と税務署の調査の違い

国税局の担当する部署もいくつかありますが、査察を除き担当部署の違いによって調査の流れが変わることはないです。

任意調査の実施方法は基本的に同じ

国税局と税務署が担当する納税者の特徴は違いますが、実施する調査方法は同じ「任意調査」です。
任意調査とは、納税者の同意の下で行われる調査をいいます。
税務調査自体を断ることはできませんが、任意調査を行う調査担当者が勝手に事務所内の書類を調べることはしません。
また、実地調査が行われる際は原則事前連絡が入りますし、調査日の調整も行うことができますので、準備を整えてから調査当日を迎えることができます。
ただし、調査の日程調整等に応じなければ、無予告での調査に切り替えて実施することもありますので、調査の連絡が入った際は必ず応対してください。

国税局職員の方が調査スキルは高い

調査内容は国税局と税務署で大きな違いはありませんが、国税局の調査担当部署には、税務署の調査担当者よりも調査能力に長けている人員を配置しています。
資料調査課や調査査察部は、税務署以上に調査実績が求められているため、調査の手が緩むことはなく、国税局の調査担当職員の方が調査に対する対応は厳しいです。

査察調査を受けると逮捕される可能性がある

国税局の中でも「マルサ」が実施する調査だけは、税務署の調査とは一線を画します。
同じ国税局内の部署である資料調査課や調査部が実施する調査は「任意調査」ですが、査察部が行う査察調査は「強制調査」です。
強制調査は納税者の同意を必要としない調査ですので、警察の家宅捜索のように、一方的に事務所や自宅を調べることが認められています。
また、強制調査で脱税が判明し、告発された納税者のほとんどは一審で有罪判決を受けています。

まとめ

国税局職員が調査担当者となるのは、納税者の中でもごく一部の方々です。
ある程度の事業規模がなければ、国税局が調査担当者になることはありませんが、調査対策は事業規模に関わらず必要です。
査察は法人だけでなく、個人に対しても調査を実施しますので、節税は法律で認められた範囲内で行ってください。

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