消費税の還付申告は税務調査の対象となりやすいので要注意 

税務調査は基本的に納税申告を対象に実施しますが、還付申告でも調査対象になります。
特に消費税の還付申告は国税当局が調査に力を注いでいますので、今回は消費税の還付申告の調査の実施状況および、調査で指摘された事例をご紹介します。

税務署が消費税の還付申告に力を注いでいる理由

税務署が消費税の還付申告への調査に力を注いでいるのは、不正に税金の還付を受けようとする事業者等が一定数存在するからです。

不正還付は悪質性が高い

過少申告も過大還付も、正しい申告を行っていない点では同じです。
しかし不正還付については国からお金を奪う行為ですので、国税当局は特に悪質性の高い不正行為として取り締まりを強化しています。
実際、国税庁は不正還付を税務調査の重点項目に掲げており、意図的に還付金額を増やした内容の申告書を提出すれば税務調査で摘発されます。

経済取引の国際化

消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付けおよび役務の提供に課される税金であるため、海外関連の取引では課税されないケースもあります。
国際的に事業を展開している企業であれば、消費税が免税となっている売上・経費も少なくありませんが、免税課税を悪用して消費税を回避したり、還付金を受け取ろうとする事業者が後を絶ちません。
国際取引は今後さらに活発になることが想定されますので、国税当局は事業者が消費税の申告を適切に行っているか注視しています。

消費税の軽減税率の導入

事業者は売上に対して課される消費税から仕入に対して課される消費税の差額を納めることになるため、基本的に利益が発生していないときに消費税の納税額が算出されることは少ないです。
ただ現在の日本の消費税には軽減税率が導入されており、販売・購入する商品によって適用される消費税の税率は異なります。
売上に対する消費税は軽減税率、仕入れに対する消費税は標準税率で計算して不正還付を受給することは理論上可能であるため、国税当局は消費税の税率が適正に区分されているかチェックしています。

消費税に対する調査の実施状況

消費税は個人・法人の事業者が申告する税金ですが、双方とも調査件数が増加している傾向にあります。

個人事業者の消費税に対する調査状況

「令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」によると、令和3事務年度の個人事業者が納める消費税に対する税務調査の実施件数は16,908件です。
調査件数は対前年比で152.7%と大幅に増加していますので、国税当局が消費税の調査に力を入れていることがわかります。
税務調査で非違が指摘される割合は75%から80%程度ですが、消費税の実地調査の非違事項の指摘割合は85%を超えています。
また個人事業者の消費税の無申告に対する調査件数も対前年比159.6%と増加しており、調査1件当たりの追徴税額は実地調査の全体よりも100万円多いです。

<令和3年事務年度個人消費税の実地調査の状況>

実地調査件数 16,908件
非違件数 14,381件
調査による追徴税額 241億円
調査1件当たりの追徴税額 143万円

<令和3事務年度消費税の無申告者に対する実地調査の状況>

調査件数 5,257件
調査による追徴税額 129億円
調査1件当たりの追徴税額 245万円

参照:令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況

法人事業者の消費税に対する調査状況

「令和3事務年度法人税等の調査事績の概要」によると、令和3年事務年度の法人消費税の実地調査件数は4万件と、対前年比で162.9%ですので大幅に増加しています。
還付申告法人に対する消費税の実地調査も4,252件と対前年比で138.7%となっており、実地調査全体よりも調査1件当たりの追徴税額は650万円以上、不正1件当たりの追徴税額は1,000万円以上多いです。

<令和3年事務年度の法人消費税の実地調査の状況>

実地調査件数 4万件
非違件数 2.4万件
上記のうち不正計算があった件数 8千件
調査による追徴税額 869億円
上記のうち不正計算に対する追徴税額 309億円
調査1件当たりの追徴税額 217.3万円
不正1件当たりの追徴税額 408.1万円

<令和3年事務年度の消費税還付申告法人に対する消費税の実地調査の状況>

実地調査件数 4,252件
非違件数 2,877件
上記のうち不正計算があった件数 791件
調査による追徴税額 372億円
上記のうち不正計算に対する追徴税額 111億円
調査1件当たりの追徴税額 873.8万円
不正1件当たりの追徴税額 1,408.3万円

参照:令和3事務年度法人税等の調査事績の概要(国税庁)

消費税の不正還付申告の事例

消費税の課税仕入れが増えれば、消費税を多く支払っていることになりますし、消費税の課税売上が少なければ納める消費税は減少します。
消費税の不正還付事例としては、仕入先と通謀して国内の課税仕入れの水増しや、輸出に関する虚偽の資料を作成し、免税対象の輸出売上を水増しする事例があります。
消費税の輸出物品販売場制度を悪用し、不正還付を行っている事例も発生していますが、国税当局はそれらに対して積極的に調査を実施しています。
消費税の輸出物品販売場制度を悪用した者に対する実地調査件数は、令和2事務年度は2件でしたが、令和3事務年度は30件に急増しており、1件当たりの追徴税額は4,143 万円と他の消費税調査よりも突出して多いです。
不正還付は重加算税の対象になることはもちろんのこと、特に悪質性が高いと判断されれば、査察(マルサ)が動くこともありますので注意してください。
不正還付を把握する手段としては、取引先の所在する国に対して租税条約等に基づく情報交換要請で取引相手の企業等から入手する方法があります。
国税庁は世界各国と租税条約を結び、条約等に基づいて情報交換を要請できる仕組みを構築していますので、海外取引でも国税当局の目から逃れることはできません。

インボイス制度の導入で調査は更に強化される

消費税に関連する制度として、令和5年10月1日からインボイス制度が導入されます。
インボイス制度が導入された以降は、買手は仕入税額控除の適用を受けるために、取引相手である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が原則必要です。
登録事業者以外の事業者から商品等を仕入れた場合、仕入税額控除の適用対象外となることから、制度が施行されてから一定期間は、仕入税額控除の適用誤りが多発することが想定されます。
国税当局はインボイス制度が施行された以後、適正申告を促す目的で税務調査を積極的に実施する可能性もありますので、インボイス制度への対応は厳格に行わなければなりません。

消費税の税務調査を受けないための対処法

消費税の税務調査は、他の税目と同様、申告内容に誤りがある場合や無申告の場合に実施されます。
個人事業主の場合、消費税の無申告者が多く、インボイス制度の導入以後は無申告件数がさらに増えることも予想されますので、消費税の課税事業者は必ず申告してください。
無申告件数の増加に伴い、税務調査が増加することも考えられますが、調査人員を無申告者に充てることになれば、適正申告を行っている事業者が調査を受ける確率は減少します。
長期間事業を継続していれば、消費税の還付申告を行う機会はありますし、税務調査を複数回受けることも珍しくありません。
税務調査で申告誤りを指摘されてしまうと、調査の周期が短くなる可能性が高くなりますので、税務調査を受けても問題ない内容の申告書を作成することが大切です。

まとめ

消費税の還付申告自体に問題はありませんが、消費税の不正還付の事例は後を絶ちませんので、国税当局はインボイス制度の導入後に調査体制を強化することも想定されます。
調査を受けた際に非違事項を指摘される確率は高いため、調査を回避するためにも適正な申告書作成を心掛けてください。

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