税務調査の対象者として選定される確率が高くなる売上規模の目安

税務調査は業種や法人・個人問わず受ける可能性がありますが、調査対象となる確率は事業者ごとに異なります。
事業規模の大小は調査対象の選定基準の一つとなっていますので、今回は税務調査の対象となる確率が高くなる売上規模について解説します。

事業規模が大きくなると税務調査を受けやすくなる理由

事業規模が大きくなることで調査対象となりやすくなるのは、主に2つの理由が考えられます。

増差税額が発生しやすい

所得税や法人税は利益に対して課される税金であり、利益が多くなるほど適用される税率は上がります。
申告漏れとなった所得金額が同じでも、適用税率が高い事業者の方が追加で納める税額は多くなりますし、計算ミス等による影響は売上が多い事業者ほど大きいです。
税務調査官は1件当たりの調査で、少しでも多く増差税額を得ることが求められていますので、費用対効果が高いとされる事業規模の大きい企業・個人事業主は、一般の事業者より調査を受けやすいです。

税務調査で確認する箇所が多い

税務調査は、調査対象者を選定する時点で申告ミスを把握しているケースもあれば、申告ミスの疑いがある状態で調査をスタートすることもあります。
取引する回数が多くなれば計上漏れなどが発生する確率は上がりますし、従業員が多いほどミスは起こりやすいです。
申告ミスが無かった場合、税務署は増差税額を得ることができなくなるため、チェックする箇所がより多い、事業規模の大きい事業者の方が調査対象として選ばれやすいです。

税務調査を受ける確率が上がる売上の基準額

売上が次のいずれかの額を超えた場合、税務調査を受ける確率は一段階上がります。

売上高1,000万円超の個人事業主

個人事業主の場合、売上高1,000万円を超えると調査対象として選定されやすくなります。
売上が増えればその分だけ支出も多くなりますし、税金の支払いを抑えるために間違った節税方法や脱税が行われることが増えることから、税務署のチェックは厳しくなります。
事業者は、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者となりますので、消費税の申告手続きが必要です。
消費税が無申告であれば税務調査で指摘されますし、消費税の申告内容の確認と並行して、所得税の調査が実施されることもあります。
法人も個人と同様、課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者となりますが、法人格での売上1,000万円は小規模に分類されますので、売上1,000万円を理由に法人が調査を受ける可能性は低いです。

売上高5,000万円超の事業者

2つ目の調査対象者になりやすい事業規模は、売上高5,000万円です。
課税売上高5,000万円を超えた場合、消費税の簡易課税が適用できなくなるため、本則課税である一般課税により消費税を計算しなければなりません。
簡易課税は消費税の計算が簡便になるだけでなく、業種によっては節税になるケースもあるため、税務署は簡易課税から一般課税に切り替わる事業者が適正に消費税の申告書を作成しているかチェックします。

売上高1億円を超える事業者

法人は、売上高が1億円を超えると税務調査の対象となりやすくなります。
都心部であれば売上1億円は事業規模が大きいとは言い難いですが、地域によっては比較的大きな事業規模に分類されることもあります。
事業規模が大きいと判断されれば、それだけで調査対象として選ばれやすくなりますので、他の事業者よりも調査対策をしなければなりません。

事業規模に関係なく税務調査が実施されるケース

税務調査の選定要件は、事業規模だけではありません。
事業規模が小さくても、調査対象として選定されることはあるので注意してください。

国税当局が脱税の証拠を把握している場合

税務署が脱税の証拠を把握している場合、事業規模に関係なく調査は実施されます。
税務署に提出される法定調書では取引内容や取引先を確認することができますし、税務調査を実施した際、他の事業者の申告漏れの情報を入手することもあります。
また国税当局は外部からの情報提供を呼びかけており、提供された情報を基に調査を実施するなど、色々な角度から調査対象者を選定しています。

黒字にならない程度の赤字申告が続いている場合

所得税や法人税は赤字であれば納税額は発生しませんが、赤字を装って税金を支払っていない事業者も存在しますので、税務署は黒字申告だけでなく赤字申告に対しても調査を実施しています。
増差税額が発生しない事案を調査することは少ないですが、増差税額が見込める場合には、赤字申告している事業者に対しても積極的に調査を行います。
また、青色申告を行っている事業者は赤字を繰り越すことができるため、赤字申告の前後で大きな黒字が発生した際は調査対象になりやすいです。

売上が常に基準額を下回っている場合

売上が基準額より少し下回る程度で推移している場合、意図的に売上を除外していることを疑われ、調査対象となる可能性があります。
消費税は課税売上高1,000万円超で課税事業者に該当し、5,000万円超で簡易課税が適用不可になるなど、売上による基準が設けられています。
一般的な企業であれば売上をコントロールするのは難しいですが、同族会社や法人成りをした「ひとり法人」は売上を誤魔化すこともできるため、売上が常に基準額をギリギリ下回るときは気を付けてください。

税務調査を可能な限り回避するための対策

事業を営んでいる以上、税務調査を受ける確率をゼロにすることは難しいですが、調査対象になる確率を下げることは可能です。

適正申告は絶対条件

基本的なことですが、税務調査を回避するためには適正申告が絶対条件です。
申告漏れなど適正な申告を行っていない事業者と判断されれば、提出される申告書は毎回厳しくチェックされますし、優先的に調査対象者となることも考えられます。
一方で、申告内容が正しければ税務署は増差税額を得ることができませんので、調査を実施する必要性を失います。
調査対象者として選ばれたとしても、申告誤りが無ければ追徴税額を支払うことにはなりませんので、適正申告を行うことが最も効果の高い調査対策です。

申告書と一緒に添付書類を提出する

申告内容に誤りが無かったとしても、申告書だけで内容の是非を判断できなければ、調査に踏み切ることがあります。
添付書類には「法定添付書類」と「任意添付書類」があり、法定添付書類は法的に提出しなければなりません。
任意添付書類については、提出していなくても法律上は問題ありませんが、申告に関連する資料等の提出が少ない場合、税務署は調査で申告内容を把握しようとします。
そのため、状況に応じて法定添付書類以外の書類等を提出することも必要です。

税理士法33条の2の書類添付制度を活用する

申告書を提出する際、関与税理士の有無は税務調査を受ける確率に影響を及ぼします。
個人事業主は、税理士に申告書作成依頼をするだけで調査を受けにくくなります。
法人税の申告書は税理士関与割合が非常に高いため、調査を回避したい場合には税理士法第33条の2の「書類添付制度」の活用を検討してください。
書類添付制度は、税理士が税務署に代わって納税者に対して聴き取りを行い、聴取した内容をまとめた書類を申告書と一緒に提出するものです。
国税当局は書類添付制度を積極的に推進しているため、確実に調査対策としての効果が見込めます。

まとめ

売上が大きい事業者ほど税務調査を受ける確率は上がりますが、調査対象に選ばれる基準は事業規模だけではないため、調査対象者に選定される要素をできるだけ取り除くことが大切です。
万が一調査対象者として選ばれたとしても、申告誤りを指摘されなければ追徴税額を支払うことにはなりませんので、基本的な調査対策を講じつつ、売上が伸びた際は対策を強化してください。

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