税務調査の現状と重点項目。ウィズコロナ時代の新たな調査方法とは

新型コロナウィルス感染症が流行したことに伴い、税務調査の方法も変化しています。
今回は税務調査の現状および、ウィズコロナ時代に国税当局が注視しているポイントについて解説します。

企業に対する税務調査の実施状況

新型コロナウィルスの影響で税務調査の件数は大幅に減少していましたが、感染症の流行がひと段落したことで調査件数は徐々に回復しています。

令和3事務年度の法人税の実地調査件数は41千件

国税庁が公表している「令和3事務年度法人税等の調査事績の概要」によると、令和3事務年度(2021事務年度)の法人税の実地調査件数は41千件と、令和2事務年度対比で163.2%の大幅増です。
ただ、新型コロナウィルス流行以前の平成30事務年度の実地調査は99千件でしたので、最盛期に比べて調査件数は4割程度に留まっています。
一方で、令和5年(2023年)5月8日に新型コロナウィルスが5類感染症に移行したことから、令和5事務年度(令和5年7月から令和6年6月)以後の調査件数は以前に近い水準まで回復する可能性があります。

1件当たりの追徴税額は増加している

国税庁は令和3事務年度の法人税の実地調査において、申告漏れ所得金額6,028億円、追徴税額2,307億円、調査1件当たりの追徴税額5,701千円の成果があったことを公表しています。
平成30事務年度の調査1件当たりの追徴税額は1,964千円でしたので、増差税額は3倍近くの増加です。
1件当たりの追徴税額が大幅に増加した要因としては、税務調査が申告漏れの額が大きい納税者に絞られて実施されていたことが考えられます。
ただ令和3事務年度よりも調査件数が少なかった令和2事務年度は、調査1件当たりの追徴税額は7,806千円でしたので、調査件数が以前と同水準に戻れば、調査1件当たりの追徴税額は減少すると推察されます。

企業に対する税務調査の主要な取組み

国税当局は、税務調査における主要な取り組みとして次の3つを実施しています。

消費税の不正還付に対する税務調査

法人に対して調査を行う際、法人税だけでなく消費税も並行して実施することがあります。
消費税の申告は、売上に対する消費税よりも仕入れに対する消費税の方が多かった場合には還付申告となりますので、仕入額を水増しするなどの虚偽申告を行うことにより、不正に消費税の還付金を得る事業者が一定数存在します。
消費税の不正還付は、国庫金の詐取ともいえる悪質性が高い行為であるため、国税当局は不正還付に対する調査を特に厳しく実施しています。

海外取引法人等に対する税務調査

経済活動のグローバル化により、企業の海外進出や海外取引は年々増加しています。
日本国内の取引に比べ、海外取引は不正を行いやすいことから、海外の取引先への手数料を水増し計上するなどして虚偽申告を行う事業者も少なくありません。
国税当局は海外取引等で不正が行われている実態を把握するために、国外送金等調書や租税条約等に基づく情報交換制度を活用して積極的に情報収集を行っています。
そのため海外取引でも不正の事実は見つかりますし、虚偽申告が判明すればその都度摘発されます。

無申告法人に対する税務調査

国税は納税者が自主的に申告・納税を行う、申告納税制度を採用しています。
申告納税制度は納税者が適正に申告手続きを行うことを前提とした制度ですので、無申告の事業者等を放置することは、納税者の公平感を著しく損なうことに繋がります。
国税当局は登記情報等から法人の存在は把握できますし、法定調書や他の事業者を調査した際に稼働無申告法人の情報を入手することもあります。
事業を営んでいる以上は実態を隠し通すことは不可能であり、無申告は期限内に申告している場合よりも指摘された際の罰則が重いですし、状況次第では税務調査が無予告で実施されることもあるので注意してください。

ウィズコロナ時代に税務調査の対象となりやすい業種

税務調査の対象となりやすい業種は存在する一方で、新型コロナウィルスが流行したことで、新たに調査対象に選定されやすくなった業種もあります。

従来から申告漏れ等が指摘される割合が高い業種

税務調査を受けやすい業種は、過去の調査で不正発見割合の高い業種や、不正1件当たりの不正所得金額が大きい業種です。
不正発見割合の高い業種には建設業や飲食業、医療関係の業種などがあり、1件当たりの不正所得金額の大きい業種としては、運送業や不動産販売業などが上位にランクインしています。
キャバクラなどの水商売は、新型コロナウィルスの流行により甚大な影響を受けていましたので、ここ数年は摘発される割合が下がっていました。
しかし、以前の様な生活水準に戻れば業績も回復することが見込まれることから、再び調査対象として狙われやすいです。

コロナ禍で成長した企業

新型コロナウィルスは世界的に経済に打撃を与える出来事でしたが、コロナ禍で業績を伸ばした企業も多数存在します。
たとえば衛生用品を製造している企業は需要が拡大しましたし、EC業界や通信関係の業界も業績が伸びています。
税務調査は売上が伸びている企業ほど対象となりやすく、急激な成長を遂げた企業は調査対策が不十分であることが多いです。
税務調査は1度に3年分の申告書を調べることが一般的であるため、コロナ禍で業績を伸ばした企業は、この先数年の間に調査を受ける確率が高くなります。

コロナ禍の業績不振から脱却した企業

企業は赤字であれば法人税を支払うことになりませんし、赤字を繰り越すことで黒字が発生した際に相殺することができます。
コロナ禍では大きな損失が発生した企業も少なくありませんが、黒字に回復した際には税務調査で計上した赤字が適正であるかチェックされる可能性があります。
持続化給付金・補助金を受給していれば、調査担当者は給付金等を適切に処理しているか確認しますので、赤字から黒字に転換した際も税務調査に気を付けなければなりません。

リモートによる税務調査が一般化する可能性がある

リモート調査は、オンライン上で質疑応答を行ったり、帳簿データ等の受け渡しを行う調査方法です。
国税庁は新型コロナウィルスの感染拡大を契機として、一部の大規模法人を対象に、国税庁の機器・通信環境を利用したリモート調査を試行的に実施しています。
現時点でリモート調査の対象となっているのは一部の事業者だけですが、試行が終了すれば本格的に運用することも考えられます。
リモート調査は調査担当者が事務所等に訪れることなく実施されるため、会議室等を手配する必要がなくなるなど、納税者にとっても利点のある調査手法です。
しかし、調査の効率化が進めば調査件数は増加することになるため、以前よりも調査を受けやすくなる可能性があります。

ウィズコロナ時代の調査対策のしかた

新型コロナウィルスは調査件数が激減するなど、税務調査にも大きな影響を及ぼしました。
今までのように調査担当者が事務所へ訪れて行う「実地調査」だけでなく、電話や来署依頼により申告誤りを指摘する「実地調査以外の調査」や、自主的な申告内容の見直しを促す「行政指導」を積極的に活用することも考えられます。
「実地調査以外の調査」や「行政指導」は、1件当たりにかかる調査日数が少ないため、実地調査ではない方法で調査が行われるようになると、全体の調査件数は増えます。
税務調査のリスクを抑えるためには、事業規模や業種に関わらず、基本的な調査対策を講じることが大切です。
コロナ禍で業績を伸ばした企業は調査を受ける確率が上がりますし、業績が回復した企業も調査対象となりやすいため、適正申告はもちろんのこと、税務署から指摘されやすいポイントを作らないようにしてください。

まとめ

税務調査は5年前まで遡って実施することができるため、新型コロナウィルスが流行したことで調査ができなかった事業者に対し、今後一斉に調査を実施することも想定されます。
税務調査を実施する連絡が入ってから講じることができる対策は限られますので、普段から専門家と相談して対策方法を練ってください。

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