調査経験が一度もない事業者の有無と効果が見込める調査対策

インターネットで発信される税務調査に関する情報は真偽不明なものが多く、間違っている情報が拡散されていることも少なくありません。
たとえば税務調査を一度も受けたことがないと話す経営者は、まだ調査を受けていないだけの可能性もあるため、本記事で税務調査の実情と効果的な調査対策をご確認ください。

税務調査が行われていない企業が存在する理由

税務調査を一度も受けたことがない企業が存在するのは、以下の理由があるからです。

税務署が実施する調査件数は限られている

法人税の申告書は毎年300万件以上提出されているのに対し、法人税の調査件数は10万件から11万件程度です。
申告書を提出している企業に限定しても、30件に1件しか調査対象になっていない計算になりますので、現実的な話として税務署がすべて企業を調査することは不可能です。
そのため、税務調査を一度も受けたことがない企業があったとしても何ら不思議ではありませんし、反対に短期間で何度も税務調査を受けている企業は、申告内容等に問題が発生していることが考えられます。

税務調査をするメリットがない

税務署が税務調査を実施する最大の目的は、調査を実施することで増差税額を得るためです。
本来の納税額が100万円の法人が80万円しか納めていない場合、国の税収が20万円減ることを意味しますので、税収を確保しつつ、課税の不公平感を生じさせないために税務調査が行われます。
一方で、法人税は利益に対して課される税金であることから、赤字続きの企業に対して調査を実施しても税収は増えません。
黒字申告をしている法人は全体の35%程度ですので、残りの65%に該当する法人は、黒字申告の法人に比べて調査を受ける確率が下がります。
ただし、赤字申告書を提出している企業の中には赤字を装っている企業もあるため、赤字申告であれば税務調査を受けないわけではない点には注意してください。

これから税務調査を実施する予定の場合

税務署は、実施できる調査件数に上限があることから、優先順位の高い事案から調査を行います。
優先順位の高い事案は高額の申告漏れや不正行為が行われている申告をいい、申告誤りが軽微なものについては、申告書を提出してから数年後に税務調査が実施されることも珍しくありません。
数年後に調査対象となるのは面倒ですが、調査が実施される前に申告誤りを把握し、自主的に修正申告書を提出すれば、加算税等のペナルティを抑えることができます。
そのため税務調査の有無に関係なく、申告誤りに気が付きましたら、できるだけ早く修正申告書を提出してください。

10年単位で考えると大半の企業は税務調査を受けている

数年の期間に限定すれば、税務調査を受けていない企業も多いですが、10年や20年の期間で考えた場合、大半の企業は税務調査を受けています。

税務調査は周期的に実施されることがある

税務調査は増差税額を得るだけでなく、適正な申告を促すことも目的の一つです。
納税者側は、税務調査が実施される可能性を感じれば、脱税や不用意な申告をしないように対処しますので、牽制の意味も込めて周期的に税務調査が行われることがあります。
税務調査を受けたとしても、申告内容に誤りが無ければ追徴税額を納めることにはなりませんが、調査自体を完全に回避するのは難しいです。

複数年分の申告書を調査するのが基本

税務調査を実施することとなった場合、税務署は複数年分の申告書をまとめて調査します。
法律上では5年まで(悪質な納税者は7年)遡って調査することが認められているため、最近提出した申告書だけでなく、過去に提出した申告書も調査対象です。
一般の法人税調査であれば、3年分の申告書をまとめて調査しますので、複数年分の申告書がまだ提出されていない起業して間もない会社は調査対象になりにくいです。
SNSなどで税務調査を受けたことがないと発信している方は、事業者としての活動期間が短いケースが多く、まだ税務調査が実施されていないだけの可能性も考えられます。
税務調査を回避できると発言しながら、後日税務調査を受けている方もいますので、SNS上で流れてくる情報を鵜呑みにしてはいけません。

可能な限り税務調査を回避するためにやるべきこと

税務調査を100%回避できる方法は存在しませんが、調査対象になる可能性を下げることや、次回以降に調査を受ける期間を延ばす方法はあります。

適正な申告書を作成・提出すること

税務調査を受けない方法として勘違いされやすいのが、税務署に見つからないように行動することです。
税務署に見つからなければ、理論上は脱税していても税務調査を回避することは可能ですが、税務署は法人税の申告書を提出していない企業の活動実績も把握していますので実際には困難です。
そもそも法人として活動するためには登記手続きが必要となりますので、登記簿で存在を確認できますし、取引相手が税務調査を受ければ、関係資料から存在を調べることもできます。
マイナンバー制度の創設により、情報が管理しやすくなっていますので、国内で活動する企業が税務署の目を完全に欺くことはできません。
また海外で法人を設立した場合でも、租税条約等に基づく情報交換により、他国から情報を集めることが可能となっています。
2023年4月1日現在では、84条約等が152か国・地域に適用されており、世界各地の情報を収集できる仕組みが構築されています。

税理士に依頼するだけでは不十分

所得税の税理士関与割合は20%程度なのに対し、法人税の税理士関与割合は90%弱と、税理士に依頼していない企業の方が珍しいです。
適正申告を行うために税理士に申告書作成を依頼するのは有効ですが、法人税の調査対策としては税理士に依頼するだけでは不十分です。
また、税理士事務所自体が税務署にマークされていることもあるので、現在依頼している税理士に不信感を抱いている場合は、顧問税理士を交代することも選択肢です。

書面添付制度の活用

近年、国税当局と税理士会が協力して推進している制度に「書面添付制度」があります。
書面添付制度は、関与税理士が税務署の代わりに申告内容についての聴取を行い、その内容をまとめた書類を申告書と一緒に提出する制度です。
税務署に提出される申告件数は年々増加しており、すべて申告書を調べるのは困難になっていることから、税理士に申告内容をチェックさせることで調査対象者を絞る狙いがあります。
書面添付制度は国税当局が積極的に推進している制度なので、制度を活用するだけで税務調査を受ける確率は下がります。
法人税の申告に関与している税理士の割合は多いですが、書類添付制度を利用している割合は10%未満と低水準なので、調査対策として高い効果が期待できます。
税務署は、書類添付制度を利用した申告書を調査する場合、調査前に関与税理士に対して意見聴取しなければなりません。
税理士への聴取で調査事項が解明されれば、税務調査は実施されませんので、書類添付制度には税務調査を未然に防ぐことも期待できます。

まとめ

税務署も調査を実施する必要性が低い納税者を頻繁に調査することはしませんが、脱税等の疑いがあれば、短期間で何度も調査を実施することもあります。
調査対策を間違えると税務署から狙われる可能性もありますので、匿名の意見ではなく、専門家の意見を取り入れて対策を講じてください。

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