税務署が個人を調査する確率と税務調査の流れを解説 

税務署は必要であると判断すれば、法人だけでなく個人に対しても税務調査を実施します。
脱税をしていなかったとしても税務署から連絡がかかってくるのは怖いですが、税務調査の流れを理解すれば恐怖心は薄れ、万が一税務調査を受けるとなった場合でも冷静に対処することができます。

申告した人すべてが税務調査を受けることはない

国税組織の職員は約56,000人いますが、提出された申告書をすべて調査することはできないため、申告した人全員が調査を受けることはありません。

所得税の申告書は毎年2,200万件以上提出されている

税務署には毎年2,000万件以上の所得税の申告書が提出されており、令和3年分の所得税の申告件数は2,285万件(※)でした。
税務調査は法人課税部門と個人課税部門、資産課税部門が行いますが、税務署には税金滞納者から税金を集める徴収部門や納付還付手続きを行っている管理運営部門など、調査を行わない部門も存在します。
また所得税を担当する個人課税部門にも、内部担当など税務調査以外の職務を遂行する職員も在籍しているため、申告件数と人員的な理由から、税務調査は一部の人にしか実施されません。

※出典:令和3年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(国税庁)

年間の所得税の調査件数は約60万件

国税庁が公表している資料(※)によると、令和3事務年度に実施された所得税の調査等の件数は599,747件です。
所得税の申告のうち、納税申告をしたのは6,568千人ですが、納税申告者だけを調査対象とした場合でも、納税申告者が税務調査を受ける確率は1割にも満たないです。
一方で、医療費控除の申告など税務調査を必要としない申告書も数多く提出されていますので、個人事業主であれば税務調査を受ける確率は数%あります。

※出典:令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁)

税務署が個人を調査対象者として選定する方法

次のいずれかに該当する場合、調査対象者として選定される可能性が高いです。

提出された申告書に誤り・疑義がある

最も税務調査の対象となる確率が高いのが、申告内容に誤りがある場合です。
税務調査は、本来納めるべき税金が適正に支払われていないときに実施するものであるため、申告内容に誤りがあれば内容を修正させ、本来納めるべき税金を支払わせます。
特例制度の適否は現況を確認しないと判断できないものもありますし、経費についても領収書などの現物を調べなければ、計上している金額が適切であるかを判断することができません。
そのため申告内容に明確な誤りがない場合でも、調査によって解明すべき疑義が生じたときは、税務調査を受ける可能性があります。

税務署が無申告の情報を把握している

税務調査は申告書を提出している人だけではなく、無申告者も対象です。
税務署は常に申告に関する情報を収集しており、無申告していなかったとしても、その年に所得を得ている事実は税務署に見つかっていることが多いです。
たとえば取引先が税務調査を受けた際に、取引に関する書類から申告漏れの実態が判明することがありますし、税務署が銀行や証券会社を調査した際に無申告の情報を入手することもあります。
無申告者に対するペナルティは、期限内に申告書を提出した後に修正申告書を提出した人よりも重く、一度税務署に目を付けられると再び調査を受ける確率が上がるなど、相応のリスクが伴います。

高額所得者は税務調査の対象となりやすい

税務署は税金の種類によって担当している部署が決まっていますので、個人の中で相対的に所得が多い方は税務調査の対象となりやすいです。
調査対象となる具体的な金額基準はありませんが、管轄の税務署内で所得が多い人ほど調査を受ける確率は上がります。
たとえば課税対象額1,000万円は、税務調査の対象となる目安として考えることもできますが、東京の都心部と地方では課税対象額1,000万円に該当する人の割合は大きく異なります。
1,000万円未満でも税務調査を受ける可能性はありますので、金額だけで税務調査の有無を判断しないでください。

税務調査の種類ごとの流れ

税務調査には「実地調査」・「実地調査以外の調査」・「行政指導」の3種類あり、税務署は調査する目的に応じて実施する方法を使い分けています。

「実地調査」が実施される際の流れ

「実地調査」は税務署が自宅や事務所等に臨場し、調査を実施する方法です。
調査担当者は事前に調査を実施する旨の連絡を行いますので、税務調査官が予告なしに調査を開始することは原則ありません。
ただし、税務署からの連絡に応対しない場合や事前連絡することで、逃亡など調査を実施することに支障が出る可能性があると判断した場合には、無予告で実地調査が行われることもあります。
個人事業主が臨場調査を受ける場合、売上状況などを尋ねられ、経費の適否を確認するために領収書などの提示が求められます。
関連書類を破棄していると、経費が否認される可能性が高いため、書類等は捨てずに保管してください。
確定申告をしていなかった人が税務調査を受けるケースでは、調査対象年分に発生した所得について一通り尋ねられ、無申告の指摘を受けることになります。
税務調査を実施した時点で、税務署は何かしらの情報を把握しているため、税務調査を受けた時点で申告・納税から逃れることはできません。
意図的な経費の架空計上や虚偽答弁などの行動は、重加算税が課される原因となりますので、調査担当者からの質問に対しては正直に回答してください。

「実地調査以外の調査」が実施される際の流れ

「実地調査以外の調査」は、納税者を税務署に呼び出して調査を実施する方法です。
譲渡所得や雑所得の申告漏れなど、個人事業主以外の方であれば、実地調査よりも実地調査以外の調査の方が行われる可能性は高いです。
税務署への呼び出しは文書で通知されることが多く、呼び出しに応じない場合は実地調査に移行して調査が行われることもあるため、税務署からの連絡には応じてください。
実地調査以外の調査では、申告誤りや申告漏れについての指摘が行われ、誤りが事実であれば修正申告書または期限後申告書を提出することになります。
修正申告等を行った際に課されるペナルティは、実地調査と基本的に同じなので、加算税・延滞税を本税と一緒に支払わなければなりません。

「行政指導」が実施される際の流れ

「行政指導」とは、納税者に自主的な修正申告や期限後申告を促すために行われます。
行政指導により提出された申告書は、自主申告扱いとなるため、実地調査や実地調査以外の調査により申告したときよりも課されるペナルティは軽減されます。
事業所得や不動産所得は毎年確定申告が必要になるため、翌年以降に適正な申告を行わせるために、実地調査で申告誤りを指摘することが多いです。
それに対し、金地金や不動産などの売却した際に発生した所得は突発的なものであり、毎年申告するケースは稀であることから、税務署は行政指導で対処することがあります。
なお、行政指導に応じない場合、実地調査や実地調査以外の調査に移行し、税務調査が行われる可能性もあるので注意してください。

まとめ

申告書を提出した人の中で税務調査を受ける確率は数%ですが、個人事業主や高額所得者は個人の中でも税務調査の対象となりやすい方々です。
税理士が申告書作成に関与していれば、税務調査を受ける確率を下げることができますし、税務調査を受けることになった場合、税理士を経由して税務署から連絡が入るようになります。
そのため税務調査に関する負担を軽減する観点から、税理士に申告書作成を依頼するのも選択肢の一つです。

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