法定監査と税務調査の違い。調査を受けないためにやるべき対策とは

国税当局は納税者に対し、税務調査だけでなく法定監査を実施することがあります。
法定監査は税務調査に比べて対象となるケースは限られますが、税務調査に派生する可能性もあるので注意が必要です。
本記事では、法定監査と税務調査の違いと、調査対象にならないための対策方法について解説します。

法定監査とは

法定監査は法律上で義務付けられている監査で、税務署が実施する法定監査は法定調書の提出義務者に対して実施する調査をいいます。
法定調書は法律で税務署に提出することが定められた資料をいい、現在は60種類の法定調書が存在します。
<法定調書の提出が規定されている法律>

  • 所得税法
  • 相続税法
  • 租税特別措置法
  • 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律

税務署は法定調書が適正に提出されているかを確認するために、質問検査権に基づいて行います。
質問検査権は対象者の同意の下で行使されるものですが、基本的に調査を拒むことはできないため、法定監査の連絡があった際は対応しなければなりません。

法定監査と税務調査の違い

法定監査と税務調査は、実施する目的が異なります。

法定監査は提出書類を確認するために実施する

法定監査は、法定調書の提出の有無や提出内容を確認するために実施されます。
法定調書は提出義務がありますので、提出を疎かにすることはできません。
しかし、監査時に未提出の調書や提出した調書に金額誤りが発覚したとしても、加算税や延滞税といった罰則が適用されないのは税務調査とは違う点です。

税務調査は正しい納税額を支払わせるために実施する

税務調査は、本来納めるべき税額が支払われていない場合に実施されます。
国の立場からすると納税額の過少申告は歳入の減少を意味しますので、税務署は税務調査で申告誤りを把握したときは調査を実施し、正しい税額の申告および納税を行わせます。
また税務調査で指摘された場合、適正に申告している人との公平性の観点から、差額税額に併せて加算税・延滞税を支払わなければなりません。
加算税は期限までに適正な申告をしなかったことに対するペナルティ、延滞税は期限までに納付が完了しなかったことに対するペナルティです。
法定調書と違い、税務調査で指摘を受けてしまうと税負担が発生するため、可能な限り税務調査を受けないことが望ましいです。

法定監査の対象者と実施される調査内容

法定監査と税務調査の対象となる納税者の条件は違いますが、法定監査の内容が税務調査に影響することはあります。

法定監査の対象となる事業者

法定調書は、調書ごとに提出すべき条件は違うため、事業者ごとで提出する量に差は生じます。
しかし、同業種の事業者と比べて提出件数が少ない場合には、提出漏れの有無を確認するために法定監査が行われることがあります。
事業規模が大きい企業は法定調書を作成すべきケースも増えることから、国税当局は定期的に提出状況を確認するために法定監査を実施しますし、国税当局の方針として特定の業種に対して集中的に法定監査を行うこともあります。
また、新たに法定調書が創設されたときは、提出状況を確認するために法定監査を行う可能性もあるなど、対象となるケースは様々です。

法定調書の作成漏れや計算ミスの確認

法定調書は定期的に作成する調書もあれば、イレギュラーに作成することになる調書もあります。
偶発的に法定調書の提出義務者となった場合、認識不足で未提出になることもあるため、法定監査では法定調書の提出状況をチェックします。
また法定調書の記載事項に誤りがあれば調書の訂正を促し、正しい内容の調書を提出させます。

法定監査から税務調査に移行することはない

税務調査は、調査を実施することを伝える「事前通知」を行わなければ原則を調査はできないため、法定監査の途中で税務調査に移行することはありません。
しかし、意図的に法定調書を提出していない場合や、記載内容を誤魔化していたときは、法定監査が終了した後、税務調査の対象になることも考えられます。
そのため法定監査の際に申告誤りに気が付きましたら、税務調査が実施される前に修正申告書を提出するなどの対応が必要です。

法定監査から税務調査に発展するケース

法定調書は、国税当局が情報を集めるために提出させているものですので、法定調書の資料を基に税務調査が実施されることも少なくありません。

無申告者の実態を把握した場合

法定調書は、確定申告を行っていない納税者を把握するために用いられることが多いです。
法定調書には、取引内容や取引金額、取引相手の住所・氏名(名称)などの情報が記載されていますので、法定調書に記載がある企業の申告事績が無ければ無申告が疑われます。
個人については、会社員やパート・アルバイトが確定申告をすることは少ないですが、不動産等を売却した際には申告手続きが必要です。
個人事業主以外の方は確定申告書を提出する習慣がないので、申告漏れが発生しやすいことから、法定調書で取引の実態を把握した場合には、税務調査を実施して無申告を指摘します。

申告内容と法定調書の内容に差異がある

事業者の中には売上除外や経費の水増しを行い、脱税する者もいます。
税務署が脱税を把握する手段は様々あり、申告内容と法定調書の内容に差異が生じている場合、税務署に申告誤りや脱税が疑われます。
法定調書は記載内容で税負担が増減することはありませんので、税務署は法定調書の内容を基に調査を進め、申告内容の適否判定を行います。

海外関連企業の脱税摘発

国税当局が近年特に力を入れているのが、海外関連企業の脱税の摘発です。
租税回避は世界的にも問題となっていることから各国は情報を共有しており、日本も租税条約等を通じて、海外企業や海外取引に関する情報を集めています。
法定調書には国外送金等調書法に規定するものが4種類存在し、たとえば100万円を超える預金を国外に送金する場合、金融機関は税務署に対して「国外送金等調書」を提出します。
国外送金自体に違法性はありませんが、所得隠しなどに用いられることもあることから、国外との入出金が多いと調査対象になりやすくなります。

法定監査・税務調査を受けないための方法

法定監査・税務調査を受けない方法として共通しているのは、期限内に法定調書や申告書などの必要書類を提出することです。
法定監査は特定の業種を集中的に調べることもあるため、回避するのは難しいですが、監査を受けた際に法定調書を適正に提出していることが確認されれば、次回行われる法定監査の時期が延びる可能性があります。
税務調査も法定監査と同様、調査を100%避ける方法は存在しません。
しかし、適正申告を行っていれば税務署は調査を実施するメリットを見出せないため、積極的に調査することは少なくなります。
期限までに必要な手続きを適正に行えば、それだけで税務署から連絡が入る確率は下がりますので、正攻法の対策を優先して講じてください。

まとめ

法定監査は資料収集、税務調査は増差税額を得る目的で実施されますが、法定監査で調べた内容を基に、税務調査が後日実施されることもあります。
法定調書の提出漏れが多ければ税務署にマークされますし、申告内容も厳しくチェックされることになりますので、申告書だけでなく法定調書についても期限までに提出してください。

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