税務署が転売ヤーに対して積極的に税務調査を実施している理由

インターネットを活用した取引で収益を得ている人は年々増えていますが、市場規模が大きくなっている業界ほど、税務調査の対象になりやすくなります。
フリマアプリ等を利用して転売を行う「転売ヤー」は、適正に申告手続きを行っていない納税者が散見されることから、税務署にマークされています。
本記事では、インターネット取引に対する税務調査の現状と、国税当局が申告漏れを把握する手段について解説します。

「転売ヤー」が税務調査の対象となりやすい理由

転売ヤーを含めたインターネット取引を行っている事業者は、国税当局が力を注いでいる調査対象の一つです。

インターネット取引の市場規模の拡大

インターネット取引の市場規模は年々拡大しており、経済産業省の資料によると、令和3年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は20.7兆円です。
前年の19.3兆円に比べて7.35%増となっていますし、ECチャネルの一つである個人間EC(CtoC-EC)も急速に拡大しています。
BtoC-ECに比べると市場規模は小さいですが、令和3年のCtoC-ECの市場規模は推計2兆2,121億円と前年比12.9%増です。
市場規模が拡大した業界は、当事者の税知識が不十分であることも多く、税金を不正に誤魔化す納税者も一定数現れます。
そのため国税当局は、業界全体に適正な申告を促す意味も込めて税務調査を積極的に実施し、自主的な適正申告を促しています。

利益を申告していない方が多い

無申告は、申告納税制度の下で自発的に適正な納税をしている納税者に強い不公平感をもたらすことに繋がるため、国税当局は的確かつ厳格に対応しています。
転売行為そのものは違法ではありませんし、転売ヤーであっても、利益に対する税金の申告を適正に行っていれば、税務上で問題視されることはないです。
しかし、転売ヤーとして活動する一定数は、意図的に申告手続きを行っていません。
意図的な税金逃れは重加算税の対象になりますし、脱税額が大きい場合には逮捕されるケースもあるので、利益が発生した際は必ず申告手続きを行ってください。

インターネット取引に対する税務調査の実情

インターネット取引に関する税務調査は、国税庁が調査実績を公表する資料の中で主な取組みの一つとして掲げており、調査件数も増加傾向にあります。

インターネット取引に対する税務調査の実情

国税庁の「令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」によると、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行っている個人に対する実地調査は、令和3事務年度において839件実施されています。
「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動」とは、シェアリングビジネスやアフィリエイト等のネット広告、ネット通販など、新たな経済活動を総称した経済活動のことをいいます。
令和2事務年度の実地調査件数は639件でしたので増加件数は200件ですが、令和3事務年度からは暗号資産(仮想通貨)等取引を区別して集計していることから、業界に対して行われている調査件数は実数以上に増えています。
実地調査1件当たりの申告漏れ所得金額は1,382 万円、申告漏れ所得金額の総額は116億円です。
所得税の実地調査の全体における1件当たりの申告漏れ所得金額は1,337万円でしたので、税務調査を受けた場合には、平均的な額の申告漏れを指摘される可能性があります。

<シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引への調査状況>

取引区分 主な取引例 調査の実施割合
シェアリングビジネス 民泊、カーシェアリング、クラウドソーシングなど 32.5%
ネット通販等 ネット通販、ネットオークション、ドロップシッピングなど 30.6%
ネット広告 アフィリエイトなど 7.0%
デジタルコンテンツ アプリ作成・配信、有料メルマガなど 6.0%
ギグワーカー 配達代行業など 4.1%
その他 上記以外 19.8%

参考:令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(国税庁)

無申告者に対する所得税の追徴税額は過去最高

令和3事務年度の所得税の税務調査で特筆すべきポイントとして、無申告者に対する実地調査における所得税の1件当たりの追徴税額が過去最高となっている点があります。
令和3事務年度の実地調査は3,828件行われており、1件当たりの申告漏れ所得金額は2,923 万円と、前事務年度の2,565万円より358万円増加しています。
所得税全体の実地調査における1件当たりの追徴税額は1,337万円でしたので、無申告に対する税務調査では、2倍以上の増差税額が発生している計算です。
1件当たりの追徴税額については過去最高の497万円となっており、こちらも所得税全体の実地調査256万円の1.94倍と高水準です。

国税当局が転売ヤーの無申告を把握する方法

所得税等の申告を行っていない人の多くが勘違いしている点として、税務署は申告書以外にも申告漏れに関する情報を把握する手段を多数有しています。

税務署に提出される申告書・法定調書

税務署が申告漏れを把握する手段として主に用いられているのが、税務署に提出される申告書と法定調書です。
申告書が提出されていなければ申告の必要性も含めてチェックされますし、申告内容に誤りがあれば調査で所得の発生状況や、計上している経費の存在などを調べます。
また、事業者等は税務署に対して法定調書を提出する義務が課されており、申告書以外でも情報を入手していますので、申告していない場合でも取引の実態は把握されています。

フリマアプリ運営会社を調査

近年転売やせどりをする方が増えている要因の一つに、フリマアプリの存在があります。
フリマアプリの登場により、インターネット上で個人間引を容易に行えるようになったことで取引額が急増しています。
インターネット上での取引であれば物的証拠が残らないと思うかもしれませんが、インターネット取引は現金取引とは違い、インターネット上にデータが残り続けます。
フリマアプリの運営は顧客情報を管理する一方で、税務署等から開示を求められた場合には情報を提示しなければなりません。
税務署は、運営会社が保有している情報から納税者の取引状況を確認し、無申告であれば税務調査を実施し、申告漏れの指摘を行います。

金融機関を調査

税務署は納税者や関連会社だけでなく、金融機関を調査することがあります。
インターネット上の取引であれば、現金を扱うことはなく、売上は基本的に銀行口座へ振り込まれます。
口座に入金があれば、税務署は入金元を辿ることで取引の実態を把握できることから、インターネット取引の実態を完全に隠すことは困難です。

外部からのタレコミ・SNSによる情報収集

国税当局は、外部からの状況提供を積極的に求めており、専用の窓口も用意しています。
転売によって不利益を被ったと感じた人は、国税当局へ情報提供を行うこともありますし、税務調査を実施した際に他の納税者が無申告であることを密告するケースもあります。
また、SNS上で転売による収益を得たことを発信すれば、税務署は発信した内容の真偽を確かめるために、申告の有無や申告内容をチェックします。
SNS上の発言が税務調査の端緒になることもありますので、税務調査を受ける確率を抑えたい場合には、発信する情報に気を付けてください。

まとめ

転売により利益を得ていたとしても、適正に申告手続きを行っていれば税務署から指摘を受けることはありません。
申告漏れや無申告が多い業界は狙われやすいですが、正しく申告していれば、それだけで他の納税者よりも税務調査は受けにくくなります。
税金を回避する裏ワザは存在しませんので、税金を少しでも抑えたい方は正攻法で節税することを推奨します。

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