税務調査で見解の相違による申告誤りを指摘された際の対処法

税務調査では計算ミスなどの明らかな誤りだけでなく、見解の相違により申告誤りの指摘を受けることがあります。
指摘事項に納得できない場合には修正申告の勧奨に応じる必要はありませんが、税務署は強制的に申告内容を修正することもあるので注意が必要です。
本記事では税務調査で見解の相違が起きる理由と、税務署が強制的に申告内容を修正した際の対処法について解説します。

税務調査における見解の相違とは

税務調査の見解の相違は、法令で規定されている内容の解釈違いによって生じることが多いです。
税法には特例の適用要件から添付書類まで記載されており、納税者は法令の規定に従って申告書を作成しますが、税法だけでは判断できない部分も存在します。
国税庁は、各税法の取扱い等の指針を定めた法令解釈通達で法律の解釈や具体例等を示していますが、すべてのケースを法令解釈通達で網羅しているわけではありません。
法令解釈通達の内容について見解が分かれることもあり、法令解釈のしかたを巡って裁判に発展することもあります。

税務調査で見解が相違した際の税務署側の対応

税務調査で法令の解釈等の見解が相違した場合、税務署は以下の手段を用いてきます。

修正申告の勧奨

修正申告の勧奨とは、納税者が自主的に申告内容の見直しを行い、修正申告書の提出を促すものです。
税務署は自らの主張が正しいと考えるため、納税者との間に法令解釈に見解の相違が生じたとしても基本的に主張を曲げることはせず、納税者に対しては修正申告の勧奨を行います。
申告内容に明らかに誤りがあれば、納税者は修正申告の勧奨に応じる形で修正申告書を提出することになります。
しかし、修正申告の勧奨はあくまでも納税者に修正申告を促すものなので、納税者が修正申告書を提出しないこともあり、修正申告書が提出されない場合には次に解説する「更正処分」が行われます。

更正処分

更正処分とは、調査担当者が職権で申告内容を改める手続きです。
税務調査で調査担当者が申告誤りを把握した場合、最初から更正処分をすることはなく、修正申告の勧奨により申告書を提出させようとします。
納税者が修正申告の勧奨に応じない場合、更正処分により申告内容を税務署が想定している正しい金額に修正し、差額の本税額の納付を求めてきます。
更正処分は納税者の意思に関係なく行うことができますが、更正処分を実施する際には、税務署が申告内容に誤りであったことを証明しなければなりません。
そのため税務調査で申告誤りを指摘したとしても、申告誤りの事実を証明する根拠が不十分の場合には、更正処分を行わずに調査が終了することもあります。

見解の相違が発生した際に納税者が行使する手段

税務調査で見解の相違が発生した場合、納税者には3つの選択肢が用意されています。

修正申告の勧奨に応じて調査を終了させる

税務調査で申告誤りを指摘された際に納税者が行うことができる対処法の一つ目は、修正申告の勧奨に応じ、修正申告書を提出することです。
調査担当者が指摘した事項に納得できない場合でも、法令上は税務署側の意見が正しいことがあります。
そのような状況においては、納税者の主張が認められる見込みは薄く、修正申告の勧奨に応じなかったとしても更正処分が行われる可能性が高いです。
また更正処分は税務署内部の手続きが煩雑になることから、調査担当者は極力更正処分ではなく、修正申告の勧奨により修正申告書を提出させようとします。
修正申告の勧奨に応じない場合、調査が長期化することも考えられますので、指摘事項にある程度納得できるときは、修正申告の勧奨に応じて調査を終了させるのも選択肢です。

修正申告書を提出した後に更正の請求書提出する

税務署の指摘内容に納得できない場合、修正申告書を提出した後に更正の請求書を提出するのも納税者ができる手段の一つです。
更正の請求書は申告期限から5年以内であれば原則提出することができるため、修正申告書を提出した後、税務署に対して見解の相違が発生した部分の更正を求めることも可能です。
延滞税は納付が完了するまでの日数が長くなるほど税額が増えることから、延滞税の金額をストップするために一旦修正申告書の提出・納付し、更正の請求書を提出して修正申告の見直しを求める方法もあります。
更正の請求が認められれば還付金が発生しますし、認められないときは不服申立てすることもできます。

修正申告の勧奨に応じない

税務署側の見解に納得できない場合には、修正申告に応じないのも選択肢です。
税務署は申告誤りを主張する材料が乏しいと更正処分に踏み切らないこともあるため、調査担当者の指摘事項を鵜呑みにする必要はありません。
更正処分が行われたとしても、処分内容について不服申立てができますし、不服申立てで納税者の主張が認められるケースもありますので、指摘事項を精査して対応方法を決めてください。

税務署の処分に不服があるときの対処法

税務調査における更正処分など、税務署(税務署長)が行った処分に不服がある場合、その処分の取消しや変更を求める手段として、再調査の請求・審査請求・訴訟の方法があります。

再調査の請求

再調査の請求は、税務署長が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服がある場合、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に税務署長に対して請求することができる手続きです。
請求を行った際、税務署長は対象となった処分が正しかったかどうかを改めて見直し、その結果については「再調査決定書」で通知されます。
税務署内で見直しを行いますので、納税者側の主張が認められないことが多いですが、再調査の請求に係る決定で納税者が不利益を被るような変更は行われないため、税負担が増えるリスクはありません。

審査請求

審査請求は、税務署長が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に国税不服審判所長に対して行う手続きです。
税務署長が行った処分に不服がある場合、納税者には再調査の請求と審査請求の2つの選択肢が用意されています。
当初から審査請求を行うこともできますが、再調査の請求の決定を経た後の処分に不服があるときについても、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内であれば審査請求をすることが可能です。
国税不服審判所長は税務署長の処分の適否について調査・審理し、その結果を納税者と税務署長に対して「裁決書」で通知します。
審査請求の件数は毎年2,000件から3,000件程度発生しており、令和4年度は3,034件でした。
審査請求の内容が認容された割合は、令和4年度において7.1%(全部認容・一部認容の合計)と、直近10年間の認容割合は10%未満と低い水準です。
ただ審査請求も再調査の請求と同様、税務署長が行った処分よりも納税者に不利益となるような変更は行われませんので、手続きしたことで税負担が増えることはありません。

訴訟

国税不服審判所長の裁決を受けた後、処分内容に不服がある場合には、裁決の通知を受けた日の翌日から6か月以内に裁判所に「訴訟」を起こすことができます。
裁判の結果、税務署長の処分が不当と判断されるケースもありますし、裁判の結果を受けて法令の改正や法令解釈通達の変更が行われた事例も存在します。
訴訟には時間と労力が伴いますが、税務署側の主張に納得できないときは、司法の判断を仰ぐことも検討してください。

まとめ

調査担当者が申告内容の誤りを指摘したとしても、指摘事項に納得できなければ修正申告の勧奨に応じる必要はありません。
更正処分が行われた際は、再調査の請求や審査請求を求めることもできますし、請求内容の全部(または一部)が認められた事例も存在しますので、調査担当者の指摘事項を受け入れられないときは顧問税理士と対応しかたを協議してください。

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