無申告に対する税務調査の実施件数と税務署が無申告者を把握する方法

税務調査は申告している納税者だけでなく、無申告の納税者に対しても実施しています。
税務署の無申告者への対応は厳しく、調査を受けた際のペナルティも重いので注意してください。
本記事では無申告の調査件数と、無申告が税務署に見つかる理由について解説します。

国税当局は無申告に対する調査を強化している

税務署が扱っている税金は、納税者が自ら税務署へ申告・納税を行う申告納税制度を採用しています。
申告納税制度は納税者の高い納税意識を持っていないと機能しない制度なので、制度を否定する行為である無申告を税務署が容認することはありません。
また、無申告者を放置するのは課税の不公平に繋がるため、適正かつ公平な課税を実現するために、無申告者への調査は税金の種類に関係なく積極的に実施されています。

無申告者に対する調査件数

無申告者に対する調査件数は、所得税・法人税ともに増加傾向にあります。

所得税の無申告に対する調査実績

令和3事務年度における、所得税の無申告に対する実地調査件数は3,828件で、前年対比127.9%増です。
1件当たりの申告漏れ所得金額は2,923 万円と、所得税の実地調査全体の1,613万円に比べ 1.8 倍となっており、1件当たりの追徴税額497万円は過去最高額です。

<令和3事務年度 所得税の無申告に対する実地調査の状況>

調査件数 3,828件
調査による追徴税額 190億円
調査1件当たりの追徴税額 497万円

参照:令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況

法人税の無申告に対する調査実績

令和3年事務年度における、法人税の無申告の実地調査は1,482件で、そのうち326件は不正計算があった事案です。
法人は個人よりも無申告の実地調査件数も少ないですが、調査による追徴税額は90億円にもなります。

<令和3年事務年度 法人税の無申告に対する実地調査の状況>

実地調査件数 1,482件
上記のうち不正計算があった件数 326件
調査による追徴税額 90.61億円
上記のうち不正計算があった件数 63.22億円

参照:令和3事務年度法人税等の調査事績の概要(国税庁)

国税当局が無申告の事実を把握する方法

国税当局は様々な手段を用いて無申告の実態を把握しており、特に活用している手段は次の3つです。

法定調書

国税当局が無申告者を把握するために最も用いているのが、税務署に提出される法定調書です。
法定調書は所得税法や租税特別措置法などの法律で規定されている、税務署への提出が義務づけられている資料をいい、現在では60種類の法定調書が存在します。
事業者等は必要に応じて法定調書を提出しなければならず、法定調書には給与や不動産の賃料の支払先、不動産売買の相手方・譲渡資産等の情報が記載されています。
たとえば個人が不動産を売却した場合には譲渡所得の課税対象となりますが、不動産仲介業者は支払調書の提出が義務付けられているため、譲渡所得税を支払わないために売買事実を隠し通すことはできません。

他の納税者の税務調査

税務署が無申告の情報把握する手段として次に多いのが、他の納税者を調査した際に把握する情報です。
事業者には必ず取引相手が存在するため、取引内容の真偽を確認するために反面調査を実施します。
反面調査先の企業等の申告事績がなければ取引が虚偽の可能性が出てきますし、取引が事実であれば取引相手が無申告であることを意味します。
事業を営んでいる以上、取引相手等から情報が漏れることもあるので、見つからないように取引を行うことは困難です。

外部からの情報提供

国税当局は、外部からの情報提供を随時受け付けています。
情報提供者に税務調査を実施した有無などを伝えることはないので、実際にどの程度活用されているかは不明です。
しかし、税務署は無申告の手掛かりを把握した時点で対象者を徹底的に調べますし、外部からの情報提供を端緒として調査を実施していることは間違いありません。

無申告であるリスク・デメリット

申告義務があるにもかかわらず申告書を提出していない状態はリスクもありますし、相応のデメリットを負うことになります。

加算税・延滞税のペナルティが重い

期限内申告をした申告書に対して税務調査が実施され、修正申告書を提出した場合には過少申告加算税の対象となります。
過少申告加算税の税率は10%ですが、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分に対する税率は15%に上がります。
一方、無申告者に対して税務調査が実施された際に課されるのは、無申告加算税です。
税率は15%と過少申告加算税よりも高く、50万円を超える部分に対しては税率20%が適用されます。
延滞税は、納期限までに納付が完了していない場合に課されるペナルティです。
納付が完了するまでの期間に応じて税額を算出しますが、期限内に申告・納税が完了していれば、1年を経過してから修正申告書を提出するまでの期間は延滞税の計算から控除されます。
しかし、無申告の場合には延滞税の控除期間の適用はないため、申告期限から3年後に調査を受けた場合、3年分の延滞税を支払うことになります。

調査対象期間が拡大する可能性

税務調査を実施できる期間は法律で5年と定められているため、5年を超えて調査を実施することは原則認められていません。
一般の税務調査では3年分の申告を調査対象とすることが多いですが、無申告事案の場合、調査できる年分すべてを調査対象とします。
また、脱税などの悪質性が高い事案については、例外的に調査期間を7年まで拡大することが認められていますので注意してください。

特例や控除を適用できない

特例制度の多くは、期限内に手続きすることが前提となっています。
期限後申告でも適用が認められるケースもありますが、税務調査で無申告が指摘された場合、その時点において特例を受けることは難しいです。
青色申告を適用している納税者は、無申告だと青色申告の承認が取り消されることもありますので気を付けてください。

現時点で無申告である場合の対処法

無申告は税務署に把握されている可能性が高いため、現時点で申告していない場合は早急な対処が必要です。

税務調査が入る前に期限後申告書を提出する

申告書を期限までに提出できない場合、無申告加算税の対象となってしまいますが、期限後申告書を提出する時期によって、課される税率が変わってきます。
無申告加算税は原則15%ですが、自主的に期限後申告書を提出した場合には税率が5%に減額されます。
また調査通知以後から調査による更正等予知前までに申告書を提出したときも、税率は10%に軽減されますので、税務調査で指摘される前に申告することでペナルティを抑えることが可能です。

書類等は破棄せず保存する

自主的に期限後申告を行ったとしても、税務調査が実施されないとは限りません。
税務署は提出された申告書をすべてチェックしますが、税務調査が実施されることを想定して申告書を提出したとみなされれば、他に申告漏れや隠している財産がないか確認するために調査を実施することがあります。
申告書を作成する際の基となった資料が無ければ、経費等が否認される可能性が高くなりますので、関係書類は破棄せず保存してください。

まとめ

無申告でいるのはリスクが高く、税務調査を受ければ本税だけでなく加算税・延滞税を支払うことになります。
事業者であれば無申告が指摘された後も税務署にマークされてしまいますので、申告書は期限内に提出することを強く推奨します。

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