飲食業に対する税務調査の状況と税務署が脱税を把握する手段

税務署は様々な方法で申告漏れや無申告の実態を把握していますので、脱税行為は厳禁です。
居酒屋やバー・スナックなどの飲食業は、税務調査の対象になりやすいだけでなく、調査時に指摘される確率が高い業種です。
本記事では飲食業が税務調査の対象となりやすい理由と、税務署が申告漏れ等の情報を入手する方法について解説します。

飲食業が税務調査の対象となりやすい理由

飲食業は次の3つの理由から、他の業種よりも税務調査を受けやすいとされています。

計算ミス・申告漏れが起きやすい環境がある

飲食業は仕入量や取引回数が多いので、帳簿の記載漏れや計算ミス等が起きやすいです。
税務調査は、すべての納税者を対象に実施しているわけではありません。
調査を実施できる税務職員の数が申告書の提出件数に比べて少なく、税務調査を受ける企業は年間で3%~4%程度です。
税務署は増差税額を得られる納税者を選定して調査を実施しますので、申告誤りが発生しやすい環境にある飲食業は、調査対象者として選ばれやすいです。

他の業種よりも不正発覚割合が高い

税務署は1回の調査でより多くの成果を求める傾向にあるため、不正が行われている確率が高い業種ほど調査対象になりやすいです。
税務調査で申告漏れが指摘される確率は法人税では75%程度と高く、そのうち20%は不正計算が行われていた事案です。
飲食業は他の業種に比べて不正が行われる確率が特に高い業種で、新型コロナウィルス感染症が流行する以前の令和元事務年度の法人税調査においては、不正発見割合の高い上位5業種目のうち、4つは飲食関係の業種目でした。
不正発見割合が最も高かった「バー・クラブ」は63.5%と、全体の3倍以上不正計算が行われていますので、業界全体で税務署からマークされています。

無申告の事業者が一定数存在する

無申告を放置すれば、適正に申告している人が損をしてしまうことに繋がるため、国税当局は無申告調査を調査の重点項目と位置づけ、無申告者の摘発も積極的に行っています。
近年無申告への対応はより厳しくなっており、高額の無申告事案に課される無申告加算税の税率が引き上げになる改正が行われるなど、申告義務がある方が申告手続きを行わないのはそれだけでハイリスクです。

税務署が飲食業の申告漏れを把握する方法

税務署が飲食業の不正や申告漏れを把握する主な手段としては、次のようなものがあります。

内観調査

内観(内偵)調査とは、売上や客の回転率を調べるために、税務職員が客としてお店を利用する調査手法です。
税務署は調査対象者を選定するために内観調査を行うこともありますし、申告内容と店舗の盛況具合に相違がないか確かめるために実施することもあります。
飲食業に対する内観調査では、以下の点を必ずチェックしています。
客の回転率
客単価
レジ打ちの有無

飲食店の売上は基本的に「単価×客数」で決まりますので、申告書に記載されている売上が内観調査で把握した情報を基に算出した数字よりも明らかに少ない場合、売上除外が疑われます。
レジ打ちをしていない飲食店については、売上の集計が漏れやすいだけでなく、売上の一部を除外しやすい環境があります。
適正に税務処理を行っていれば問題ないですが、お金の管理状況が杜撰だと判断されれば、実態解明のために調査が行われることもあるので気を付けてください。

SNSなどの外部からの情報

SNSなど、インターネット上で発信されている情報も、飲食店の申告漏れ・申告誤りを把握するための手段として利用されています。
お店の盛況具合については内観調査だけでなく、SNSでチェックすることもあり、SNSで人気があるお店として紹介されているのにもかかわらず申告書の売上が少ない場合、過少申告が行われている可能性も考えられます。
また税務署が集めている情報は店舗に関するものだけでなく、経営者に関する情報も含まれています。
事業者がSNS上で何気なく発言した内容が税務調査の端緒となることもありますので、税務調査を回避する点においては、SNSで不用意な発言をするのは控えた方がいいでしょう。

同業種との売上・経費の比較

利益率は業種ごとで目安となる基準があり、利益率が業界の平均値から大きくかけ離れていると、申告誤りや計算ミスが疑われます。
事業者が納めることになる所得税や法人税は利益に対して課される税金ですので、税金の支払いを抑えるために利益が少ないことを装う事業者も存在します。
飲食業は利益率が低い業種ですが、利益率が低調な場合には意図的な利益率の調整を疑うこともあるので注意してください。

飲食業に対する税務調査の特徴

事業者に対する税務調査の流れは業種ごとに大きく変わることはありませんが、飲食業を営んでいる方が気を付けるべきポイントがいくつかありますのでご紹介します。

売上・経費は入念にチェックされる

事業者が共通して気を付けるべきポイントとして、売上・経費の計上時期の誤りがあります。
売上と経費の計上時期がズレてしまうと算出される利益の額が変わるため、計上時期は必ずチェックします。
飲食業は年末年始に忘年会・新年会等、売上・経費ともに増加する時期が重なるので注意してください。
現金取引のみの飲食店は売上の一部を除外しやすい状況があるので、帳簿書類は必ずチェックされますし、事業に必要のない支出が経費計上されていないかも調べられます。
店舗兼住宅で事業を営んでいる場合、公私で使用している減価償却資産の割合を確認するだけでなく、設定した比率の根拠の提示を求めてくることもあります。
根拠を示すことができなければ、経費が否認される可能性もあるので調査前の準備は不可欠です。

無申告事案は無予告で調査が実施される

税務調査を実施する場合、調査前に税務調査官から調査を行う旨の連絡があります。
事業者は連絡を受けてから調査の準備をすることができますし、必要な書類を用意することで調査をスムーズに進行・終了させることができます。
一方、無申告事案については、事前連絡することで逃亡等の恐れがある場合には、予告なしに調査が実施することが認められています。
飲食業であれば逃亡の可能性は低いですが、証拠を隠滅する可能性はあるため、無予告調査を受けないためにも申告書は期限内に提出してください。

自家消費にも注意すること

個人で飲食店を営んでいる場合、自家消費(家事消費)の扱いにも注意が必要です。
自家消費は、個人事業者が棚卸資産または棚卸資産以外の資産のうち、事業用に使用していたものを家事のために、消費または使用することをいいます。
自家消費した資産は売上として計上しなければならず、売上の申告漏れや過少申告が指摘されやすい項目です。

聞き取りは念入りに行われる

税務調査は申告誤りを指摘するだけでなく、不正行為が行われていないかもチェックしています。
計算ミスや認識不足による申告誤りと、意図的に売上除外等を行った場合では性質が違いますので、調査担当者は申告誤りが起こった原因についても追求します。
意図的な税金逃れは重加算税の課税対象となりますが、ポイントになるのが仮装隠蔽行為の有無です。
経費が存在したかのように仮装したり、売上が無かったかのように隠蔽している事実があれば重加算税の課税対象です。
また税務調査での質疑応答において虚偽答弁を行った場合も重加算税の対象となるので、質問に対しては正直に回答してください。

まとめ

居酒屋やバー・スナックは、他の業種等に比べて無申告や申告誤りが発生する確率が高いため、調査対象者として選定されやすいです。
税務調査を回避するためには基本的なポイントを押さえることが大切で、適正に申告書を作成するだけで調査を受ける確率は大きく下がります。
税務調査を受けた際、税金逃れを行ったと判断されれば、重加算税の対象になるだけなく、最悪の場合には逮捕される危険もありますので十分注意してください。

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