税務調査は赤字申告に対しても実施されるので要注意

税務調査は利益が発生している会社を対象に実施することが多いですが、赤字会社でも調査を受ける可能性があります。
本記事では赤字会社に対して税務調査を行う理由と、調査対象となりやすい赤字会社の特徴について解説します。

税務署は黒字会社を調査対象にすることが多い

税務署は、納税者に正しい税額を納めさせるために税務調査を実施します。
納税額が実際に納めるべき税額よりも少ない場合、国の税収が減ることを意味しますので、税務署は税収を確保するために税務調査を行い、納められていない差額税額を回収します。
一方で、所得税や法人税は利益に対して課される税金であることから、赤字の事業者については所得税・法人税の納税額が生じません。
赤字会社の申告内容が誤っていたとしても、納税額が発生していなければそれだけで税収が減らないので、税務調査は基本的に黒字会社を対象に実施されています。

赤字会社に対して調査を実施する理由

税務調査の対象となるのは主に黒字会社ですが、赤字会社に対しても調査は実施されます。

赤字を装って申告している事業者の存在

赤字の申告書を提出したとしても、納税額が発生する可能性はあります。
過去のデータになりますが、東京国税局は平成20事務年度に赤字申告法人に対して16,213件の実地調査を行っており、そのうち1,965件は赤字から黒字に転換しています。
法人税の申告書を提出する企業のうち3分の2は赤字申告であり、多くの法人は赤字でも適正に申告書を作成していますので、黒字会社よりも調査を受ける確率は低いです。
ただ税務調査は基本的に黒字会社を対象に調査することは知られており、赤字を偽装することで納税を回避する事業者の一部に存在しますので、赤字会社であっても調査対象にならないわけではありませんのでご注意ください。

赤字は黒字と相殺することができる

青色申告を行っている事業者は、赤字(欠損金)を翌年以後に繰り越すことができます。
赤字が過大に計上されていれば、その分だけ黒字を相殺する額が増え、課税対象金額が小さくなることから、赤字申告を調査対象にすることもあります。
個人事業主であれば3年、法人は10年赤字の繰越しが認められていますので、翌年以後に発生した黒字と赤字を相殺することで所得税・法人税を抑制できます。
また、前年(前事業年度)に黒字が発生している場合については、赤字を繰り戻しすることで前年に支払った税金の還付を受けることも可能です。
法人税の繰越期間は特に長いため、状況によっては調査対象範囲が広くなることも想定されますので、調査を避けるためには黒字・赤字に関係なく適正に申告することが大切です。

消費税の還付を受けている

法人税は赤字であったとしても戻る金額はありませんが、消費税については赤字の額が発生していると還付金額が発生します。
課税売上高1,000万円を超える事業者は消費税の課税事業者に該当するため、所得税・法人税の申告だけでなく、消費税の申告手続きも必要です。
消費税は課税売上に対する消費税から、課税仕入れに対する消費税を差し引いた額を納めることになり、課税仕入れに対する消費税の方が大きければ差額が還付になります。
消費税の還付申告は珍しいものではありませんが、免税制度を消費税の適用税率を悪用し、赤字を装って還付金を得ようとする事業者もいることから、消費税の還付申告をした際も調査を受けることがあります。

税務調査の対象となりやすい赤字会社の特徴

次に当てはまる会社は、赤字が発生した年においても税務調査の対象になりやすいです。

申告誤りがある会社

申告誤りは正しく税額計算が行われていないことを意味しますので、黒字・赤字問わずチェックされます。
赤字額が大きければ申告誤りを指摘しても黒字化する可能性は低く、追徴課税が発生しないことも考えられますが、赤字を偽装している会社もある以上、申告内容に疑義があれば税務調査が実施されやすいです。
意図的に赤字を偽装する意思はなかったとしても、売上や経費の計上する時期を誤ったことで赤字から黒字に転換することはありますし、年度末は売上や経費が増加しやすい時期であることから、申告誤りが起こりやすいので気を付けてください。

消費税の不正還付の疑いがある会社

海外取引など消費税が課されない取引もありますが、海外への売上を装うことで、消費税の課税売上を偽装する事例も発生しています。
消費税の軽減税率は、令和元年(2019年)10月1日から導入されましたが、消費税の適用税率偽装による不正還付も注視されています。
たとえば課税売上に対する消費税の税率を8%、課税仕入れに対する消費税の税率を10%で計算した場合、課税売上と課税仕入れの金額が同額であっても、2%分の消費税の還付を不正に受けることが可能です。
不正還付は国税当局が税務調査の重点項目の一つとして掲げており、積極的に取り締まりを行っていますので、所得税・法人税だけでなく、消費税も同様に適正に申告しなければなりません。

不正が指摘されやすい業種

国税当局は毎年税務調査の実績を公表していますが、毎年特定の業種が申告漏れや不正が発覚した割合が高い業種として指摘されています。
不正が指摘されやすい業種としては、飲食業や建設業、水商売などがあり、最近ではコンサルタント関係も1件当たりの申告漏れ所得金額が多い業種としてランクインしています。
税務署は事業規模が同程度であれば、申告誤りが発生する可能性が高い業種の事業者を調査対象に選びますし、過去に税務調査で指摘された事業者も調査対象になりやすいです。
税務署から目を付けられると、短期間で何度も調査を受けることになりかねませんので、不正が指摘されるケースが多い業種ほど、適正に申告することが求められます。

新型コロナウィルス感染症の影響で売上が下がった業種

新型コロナウィルス感染症の影響で、数年間売上が下がった業種もありますが、それらの業種は今後税務調査の対象になる可能性があります。
赤字が続いた事業者は利益が出ていないので、所得税・法人税を納めることになりません。
しかし、感染症の流行が収まった後に黒字化すれば、繰り越した赤字を黒字と相殺することができるため、税務署は申告した赤字の額が適正であるかチェックします。
また、税務調査においては給付金や助成金等が適切に計上されているかも確認しますので、赤字がしばらく続いた業種であっても調査対策は不可欠です。

赤字会社が調査を受けた際にチェックされるポイント

赤字会社が調査対象になった際に税務調査官が調べる事項は、基本的に黒字会社と同じです。
売上の除外や経費の水増しの有無は調べられますし、計上時期についても確認が入ります。
個人事業主や同族会社の場合、経費に私的な支出が含まれていないかチェックされますので、普段から公私の支出は分けるようにしてください。
税務調査は複数の税目を同時に調査することも多く、法人税と一緒に消費税や源泉所得税を調査しますので、調査対策はすべての税目に対して講じる必要があります。

まとめ

税務調査は複数年分の申告書をまとめて調べますので、赤字の申告書を提出した年に調査を受けなかったとしても、翌年以後に利益が発生すれば、利益が出た年の申告書と一緒に赤字申告も調査対象となります。
赤字会社でも税務調査を受ける可能性がある以上、適正な申告をすることが求められますので、損益に関係なく正しい内容の申告書を提出してください。

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