税務調査の法的根拠が規定されている国税通則法とは何か

税金の取扱いは、所得税法や法人税法など種類ごとに法律で定められていますが、国税の税務調査や加算税などの共通事項は国税通則法で規定されています。
本記事では国税通則法で定められている主な事項と、国税当局が税務調査を実施できる法的根拠について解説します。

国税通則法の概要

国税通則法は、国税に関する基本的な事項および共通的な事項を定めた法律です。
税法全体の構成を体系的に整えるため、課税や納付など共通的な事項については国税通則法、納税義務者や税率などは個々の税法で規定しています。
各税法の共通的な事項には以下のようなものがあり、加算税・延滞税や税務調査に関する事項は国税通則法で定められています。

<国税通則法に規定されている主な事項>

  • 期限後申告
  • 修正申告
  • 更正・決定
  • 更正の請求
  • 賦課
  • 納付
  • 還付手続き
  • 附帯税
  • 税務調査手続き

国税当局が税務調査を実施できる法的根拠

国税当局は、国税通則法第74条の2以降に規定されている条文を根拠に、納税者に対して税務調査を実施しています。

税務調査手続きとは

税務調査の手続きを定めた国税通則法の規定は平成25年1月に施行され、現在の税務調査では原則として、調査担当者は調査を実施する際に納税者に対し、事前通知を行わなければなりません。
事前通知で伝えられる内容は以下の通りであり、納税者は調査対象となる税目等をあらかじめ知ることができますので、調査当日までに関係書類を用意し、顧問税理士等と調査対策を練ることが可能です。
なお、無申告者や税務調査に応じないなど、課税の公平確保の観点から、例外的に事前通知を行わずに調査が実施されることもあります。

<事前通知の内容>

  • 実地調査の開始日時
  • 調査を行う場所
  • 調査目的
  • 調査対象の税目
  • 調査対象期間
  • 調査対象となる帳簿書類その他の物件
  • その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なもの

税務調査の「調査」とは

税務調査における「調査」は、国税に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等または税額等を認定する目的、その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で税務署職員等が行う一連の行為をいいます。
一連の行為には証拠資料の収集や要件事実の認定、法令の解釈適用なども含まれますが、相続税・贈与税の徴収のために行う一連の行為は調査に含まれません。

<調査に該当しない主な行為>

  • 提出された納税申告書の自発的な見直しの要請
  • 適用誤りの有無を確認するために必要な基礎的情報の自発的な提供を要請した上で、必要に応じて修正申告書(更正の請求書)の自発的な提出の要請
  • 納税申告書の提出がない納税者に対し、当該義務の有無を確認するために必要な基礎的情報(事業活動の有無等)の自発的な提供を要請した上で、必要に応じて納税申告書の自発的な提出の要請

税務署職員等が行う行為であっても、特定の納税義務者の課税標準等または税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しません。
調査に該当するか否かは、修正申告書や期限後申告書を提出する際に課される加算税の適用税率に関係してきます。
調査に該当する行為により修正申告書を提出することになった場合、過少申告加算税や無申告加算税、重加算税が賦課される可能性があります。
一方、調査に該当しない行為に基づき納税者が修正申告書を提出した場合、加算税は軽減(不適用)措置の対象となり、重加算税が賦課されることはありません。
税務調査には「実地調査」・「実地調査以外の調査」・「行政指導」の3種類ありますが、行政指導は法律上の税務調査には該当しないため、行政指導により提出した修正申告書等は自主申告扱いになります。

税務調査を実施する職員

国税通則法では、適正公平な課税の確保の観点から「質問検査権」が与えられています。
質問検査権は、納税義務者等に対して質問や帳簿書類その他の物件を検査するだけでなく、物件の提示・提出を求めることができる権限をいいます。
質問検査権を行使できる職員は、国税庁・国税局・税務署・税関の職員のうち、その調査を行う国税に関する事務に従事している者です。
一般的な税務調査では、税務署の職員が調査担当者になることが多いです。
しかし、規模が大きい事業者や脱税額が大きい事案については、税務調査を専門とする国税特別調査官(通称:トッカン)や、国税局職員が調査を担当することがあります。

税務調査の再調査の制限

再調査とは、同じ税目・課税期間を対象に調査を行うことをいいます。
実地調査による調査が終了した場合、調査対象となった税目・課税期間は、調査の結果に関係なく、原則として同じ税目・課税期間に対して再調査は実施されません。
一方で、「新たに得られた情報に照らして非違があると認めるとき」に該当するケースについては、調査対象になった税目・課税期間であっても再調査が認められています。
「新たに得られた情報に照らして非違があると認めるとき」に該当するケースとしては、取引先を税務調査したことで、当初の調査の際には把握されていなかった非違事項が、実地の調査終了後に明らかになった場合などが挙げられます。
なお、異なる税目や別の課税期間に対する調査は再調査に該当しないため、数年後に再び税務調査を受けることはあるので注意してください。

任意調査と強制調査の違い

国税当局が実施する調査には任意調査と強制調査があり、国税通則法では別々の条文で規定されています。

任意調査

任意調査は一般的な税務調査をいい、国税通則法第74条の2(相続税は第74条の3)で定められています。
調査担当者は、任意調査を行う際は原則として事前通知を行い、納税者の同意の下で調査を実施することになります。
実地調査で帳簿書類等の提示・提出を求める際は、納税者に対して提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、承諾を得てから調べるため、調査担当者が勝手に現物確認を行うことはありません。
ただし、任意調査であったとしても理由なく調査を拒むことはできず、国税通則法第128条では調査担当者からの質問に対しての虚偽答弁や答弁をしない場合、帳簿書類等の提示・提出を拒む行為に対しては罰金規定が定められています。
国税庁ホームーページで公開されている「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」によると、罰則規定をあることを理由に強権的に権限を行使することはないとしていますが、国税通則法で罰則が規定されている点には留意してください。

強制調査

強制調査は、納税者の意思に関係なく実施することができる調査で、国税通則法第131条以降の条文で規定されています。
いわゆるマルサ(査察)が実施する調査が強制調査に該当し、任意調査とは違い、強制調査を行うためには裁判所の令状が必要です。
強制調査は担当者の判断で捜索や差押えが実施できるだけでなく、脱税を指摘された際に刑事告発されることがあります。
強制調査の実施件数は年間100件から200件程度と少ないですが、対象となった際のリスクは非常に高いです。

まとめ

一般的な税務調査は任意調査に該当しますが、調査自体を拒むことはできないため、税務調査の連絡が入りましたら適宜対応することになります。
顧問税理士は、調査担当者と日程調整や調査結果の説明などの対応を納税者の代わりに担うことができるため、税務調査の負担を軽減する目的で税理士を付けることも選択肢です。
税務調査の連絡を受けてから税理士を付けることも可能ですが、税務調査を受けないことが最善であるため、申告書を作成する時点から依頼するのが望ましいです。

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